TOOL 10
今まで、考えもしなかった事を教えてもらった。
あの、最初の【アーミー】と名乗った、ミニマという少年に。
自分は、この施設に無理矢理に連れて来られたのだと言う。そして、施設の外では、双子の兄弟が暮している事も。
もっと…、もっと色々な事を教えてもらいたかった。
けれど、代わりの研究員がすぐに来てしまい、アーミィは部屋から出されてしまった。手には、「処分しておけ」と言われて拾い集めた、銃の部品が一式。上官に渡そうと思っていたけれど、これではもう使い物にならないだろうし、処分しろと命令されたのだから、処分するしかない。
しかしアーミィは、そんな事よりも、気になる事があった。
自分は、施設の外に居た事がある。
どうして、この施設に来たのか。
この施設の事。
研究員たちの目的。
何故、自分は同じくらいの歳の子供達と殺しあってきたのか。
疑問にすら浮かばなかった事が、酷い違和感と共に押し寄せる。
アーミィはゆっくりとした足取りで、自分の部屋に戻った。
広い部屋に小さく区切られた独房部屋は、もう自分しか居ない。かつては、この小さく区切られた牢に、ひとりひとり【アーミー】がいた。
物音ひとつしない部屋に、自分の裸足の足音だけが、軽い音を響かせる。
アーミィは、自分の番号のプレートが下がっている牢部屋に入り、狭いそこのコンクリートの上に座った。
処分しろと言われた銃の部品だけれど、どう処分して良いのか解らず、そのまま持って来てしまった。戦闘訓練をしている時は、壊れた銃や使い物になら無くなったナイフを回収班が集めてどこかへ持って行っていたから、自分ではどうしていいのか解らなかった。
バラバラになった銃を、コンクリートの床に広げてみる。まったく損傷箇所は無く、組み立てる前の状態そのものだった。
ふと、赤い帽子を被ったギガデリックという少年を思い出す。
不可解な能力。あんな力を持った【アーミー】がいたら、とても苦戦していただろう。
良く喋り、表情をころころ変えて。あんなにも先を読まれ易い態度をとっているだなんて、よほど自信があるのか、戦闘をなめているとしか思えない。
憶測だけれど、戦闘経験は殆ど無いだろう。弾丸を受けた時の処置方法も知らないようだった。
無警戒な笑顔に、どうしていいのか解らなかった自分。
今までの自分とは、何かが変わるような気がした。
長くも無い時間の間に、何かが。
もやもやとした、曖昧で確定出来ない思考が気持ち悪くて、アーミィは首を振って振り解くように考えるのをやめた。
研究員か上官から命令が出るまで、何も考えずにじっとしていようと思う。
また勝手に行動したら、また変な奴と出会ったり、また色々な疑問が浮かんで気持ち悪くなってしまうかもしれない。
けれど、やはり、居ても立ってもいられなかった。
嫌に、神経が張り詰める。物音ひとつしない部屋で、身じろいでコンクリートと自分の足が擦れる音だけが耳障りなくらいだった。
やる事も、やりたい事も無い。
ただ、時間がしつこいくらいに、ゆっくりと流れていく。
何度目かになる身じろぎで、銃の部品が足に触った。
アーミィは、気怠そうに身体を起こし、その銃の部品たちを、手でカラカラと掻き回してみた。
繋がっていれば人を殺せるくらいの代物ではあるのに、こうしてバラバラになってしまっては、何の役にも立たない無力なジャンクでしかない。
何の気無しに掻き回していたが、やがてその部品の一部が、本来繋がっていた他の部品と少しの隙間を空けて揃った。
それを見て、アーミィはその部品同士を手に取り、組み合わせた。
またひとつ、またひとつ…。
アーミィはいつの間にか、夢中になって銃を組み立てていた。
それを止める理由も、止める者もいなかった。
「できた…」
やがて全ての部品が一つの銃を形成した時、アーミィはぽつりと呟いた。
肩から力が抜けるような、不思議な達成感。
バラバラのものがひとつになると、その存在は力強いものになるという事を、アーミィは意識もせずに心の片隅に覚えたような気がした。
アーミィは銃を握り、いもしない標的に銃を構えてみた。
再び、ギガデリックの事を思い出す。
“訓練ばっかやってて、知りたいコトなんか、教えてもらってねーんだろ?”
彼の言葉が、突き刺さるように心に響いた。
考えるのをやめようと思っていたのに。
もう一度…。
もう一度だけ、もう少しだけ、ミニマと話がしたくなった。
話しをして、何をするのか。それは知らない。
事を知って、どうするのか。それも解らない。
それでも。
アーミィは、銃をズボンのポケットに押し込むと、すっと立ち上がった。
あの部屋へ、もう一度…。
つづく