ある運命の、無数にある未来のひとつ。

遠い未来の、ある結末。



 
 
余計な心配させたくなくて言わなかったけど、この身体の痛覚なんてとっくの昔に狂ったから、痛くなんてないよ。
 
それより、刺斬の方が痛そうな顔してる。
刺斬はいつも優しいな。
でもその優しさが、オレは怖かったんだよ。
だから避けてた。
 
出来損ないのオレには、その優しさは重過ぎる。

 

 
 
 


 
 
刺斬と鎖は仲良しだから、逃げ出すとしたら一緒に裏切るのは当然の事。
心から信頼しあえる関係は、嫌いじゃない。
見ていて気分が良かったから。
 
オレが暴走しても殺されずに長く仕えていられたのも、他のヤツには到底不可能だっただろうし、2人ともオレの事よく思って従ってくれてたと思う。
 
こんなオレ相手に、今までよく我慢してきたよな。

 

 
 
 

 
 
不可能だと知ってるのに、希望を持つなんて事はやめておけ。
希望を持つ方は、虚しくなる。
希望を持たれた方は、悲しくなる。
もうオレがただの生物兵器でしかないこと、知ってるだろ?
 
この身体はもうとっくに…。
お前たちが思っているよりも、組織に支配されてる。

 

 
 
 

 
軌跡の神の加護を受けて生まれたあの重力使いに、鎖は逆らえない。
文字通り血肉を分けた分身として、オリジナルとお互いに本能的に認識してた。
だから、最初に裏切るのは鎖だと分かってた。
 
でも、その決断をするまでに、長く葛藤して悩み苦しんでいたことも知ってる。
オレもお前も、考え方は違ってもオリジナルの存在に悩まされてた所は、同じだった。
でも、鎖は周りにそれを悟られないように、いつも明るく気丈にしてた。
 
その心の強さが羨ましかった。
オレは弱かったから、崩壊した。

 
 
 
 
 

何をやっても、いくら手を尽くしても、行き着く先は同じ。
未来は変えられるけど、運命を変えることはできない。
無数に枝分かれした未来は、運命という幹から生えてる。
だからこれは、当然に起きるべき事。
 
誰も悪くない。

 
 
 
 
 


 
 

オレはクローンだけど、それでも永久少年だから、世界の真理を知ることができる。
 
お前たち自身は知らないだろうけど、
お前たちはすべての運命とあらゆる時代を『接続』する存在。
それは時に、永久少年を超える可能性を持った高位存在だってこと。
 
2人でひとつであるお前たちは、必ずまた逢えるから何も心配しなくていい。
もう二度と、こんな最期にならないように、次の運命は間違えるなよ?

 

 

 
 
 
 
 


 
 
 
この離れすぎていた運命を繋げてくれた、鎖。
この永久の命を断ち切る未来をくれた、刺斬。
お前たちに感謝するよ。
ずっと、ずっとこの時が来るのを待ってた。
 
大好きな兄にして、殺すべき相手。
憧れの永久少年であり、妬ましいオリジナル。
 
兄さんはオレみたいな『偽物』じゃなくて、『本物』で『最強』の永久少年…。

 

 
 
 

 
 

ごめんね、兄さん。
本当に、ごめんなさい…。
 
オレはもう、兄さんの知ってる昔のオレじゃないんだよ。
『最強』になれなかった劣化品が、どんな扱いをされていたか。
『本物』を超えられなかった複製品が、どんな思いをしてきたか。
オレがオレでなくなるのには、十分すぎる時間が過ぎた。
 
兄さんに昔の笑顔を返せる自信なんて無いよ。

 

 
 
 
 
 


 
 
 
だから、どうかお願いだから、このオレの本心を見抜かないで。
 
悪い組織の犬のままでいい。
クローン隊のボスのままでいい。
命を狙ってる敵のままでいい。
光を浴びられない影のままでいさせて。
 
オレを殺せるのは、兄さんだけだから。

 

 
 
 
 
 

…これでやっと、籠から出て自由になれる。

 
 
 
 
 

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