日常記録やゲームの感想とか、創作や二次創作の絵や妄想を好き勝手に綴っていく、独り言の日記。
 


しばらく日記更新お休み


 

うちよそ話

日常の雑記 - 日記

★うちのライエストがあやさん宅のルトロヴァイユにお邪魔するお話。
毎度ながら相違はお許しくださいな。
思い付き文章でオチが無いので、唐突に話しが終わってますゴメンナサイ。でも書いてて楽しい!


「ライ。ライ、こっち!」
 親しげに愛称で呼んでくる声。初めて聞くのに、いつも聞いている気がする声。
 そんな不思議な声に促されて、ライエストは目を開けた。目を開ける直前まで自分は何をしていたんだろうかと疑問が浮かび、開いた目に映る人物を見て疑問が増える。
「だ、誰…だ?」
 手を引く人物は、自分とあまり歳の差の無さそうな子供。真っ白な肌と青い髪、赤い瞳は笑顔で細められていて。それに誘われるように、思わず笑顔を返してしまった。
 手を引く相手は、言わなくても分かるだろ?という様子で黒いパーカーのフードを取る。青い髪からは大きな2本の角が生えていた。
「サージェイド…?」
 その角は見間違いようもない、大切な相棒であるドラゴンのもの。けれど、サージェイドが他の竜種に姿を変えることはあっても、人間の姿になるなんてことは今まで一度も無かった。
「ライ、こっち!」
 サージェイドは上機嫌で強く手を引く。引かれるままに進みながら、ライエストの頭の中は色々な思考が巡っていた。まさかサージェイドが人間の姿にもなれるなんて知らなかった。たくさん話をしたいし、いつもどんな気持ちでいるのか聞きたかった。本当に相棒として一緒にいることに後悔はないのかを。
「お前、人間にもなれたんだなぁ。俺、お前と話ができたらいいなってずっと思ってたんだ! なぁ、お前って…」
「サージェイドが、人間の真似するできルの、ずっとずっと未来だった。だかラ、“今”会いに来た」
「今? いつも一緒にいるだろ?」
 サージェイドの言葉の意味が分からない。けれど、ほんの一瞬だけ垣間見たサージェイドの笑顔が崩れた表情に、それ以上の追及の言葉を続けることができなかった。
 手を引かれ、どこだかか分からない道を走り着いたのは、一軒の店だった。扉を開けるといい香りの空気がでてくる。
「いらっしゃいませ!」
 元気な男女の声。
「あ! サージェイドくん、お友達連れてきたんだね!」
 白地に桃色の兎が描かれた浴衣を着た少女が目を輝かせて近づいてくる。その少女の顔に見覚えがあるような気がして、ライエストは目をしばたいた。
「こちらへどうぞ!」
 きらきらとした太陽のような笑顔で、少女はテーブル席に案内してくれた。席に座ると、同じく隣に座ったサージェイドに顔を寄せて小声を出す。
「ここどこ? この人、サージェイドの友達か?」
「ココ…は、ルトロヴァイユ。サラは、サージェイドの友達。レンリと、てんちょも友達」
 サージェイドはこくこくと頷きながら答えた。
「私はサラだよ。よろしくね。…えっと…」
「俺は、ライエスト・トゥルパだ…、です。よろしく」
 慣れない敬語で挨拶を返すと、サラは万遍の笑顔になり小走りでカウンターへ向かって行った。その後姿を目で追う。なめらかに揺れる長い髪は秋の山を思わせるような明るい茶色だった。サラをどこで見たのか思い出せない。でもサラは初対面のようだった。
 入れ替わるように、灰色の浴衣を着た銀髪の青年が寄ってきて、水入りグラスを2つテーブルに置く。鋭さを感じる目付きで見透かすようにじろじろと見てきた。
「へぇ。化け神が友達連れてくるっつーから、とんでもない化け物かと思ってたが…。ドラゴンのハーフか? 珍しい」
「っ!?」
 ライエストは青年の言葉に息を呑んで立ち上がった。血の気が引いて思わず後退する。逃げる準備とばかりに心臓の鼓動が早くなる。
「え、なん…で…」
 殆ど人間と同じ姿だから気づかれるはずが無いのに。まさか髪に埋もれてる角が見えてたのかと思い、慌てて頭を両手で覆う。
「お、俺、ハーフじゃ、ない…ぞ…」
 銀髪の青年は口元を押さえてぷっと噴き出した。
「動揺しすぎだろ。何でそんなに怯えんだよ。誰にも言いやしねえから安心しな」
 青年は笑いを堪えながら手に持っていたメニューを広げて、ライエストの目の前で見せながら、メニューを指さす。
「ドラゴンなら肉食だろ? 今日のオススメはコレな。トマトソースのハンバーグとチキンステーキ。これでいいよな?」
「俺、ドラゴンじゃない…」
「はいはい。じゃ決まり、と」
 青年はこちらの話を気に留めず、ひとりでさっさと話を決める。
「カラ…パルゼ… ヘルガゼア ヤカル」
 ライエストは首を振りながら不服と文句の言葉を漏らす。
「ライ、トゥルパ語になってル」
 サージェイドがライエストの服を掴んでくいくいと引く。
「だいじょぶ。レンリが言いそう、なルしたラ、記憶消ス」
「信用ねえのかよ」
 サージェイドの続きの言葉に、レンリは半眼になってぼそりと言い返した。
 ライエストは少し俯き気味になってサージェイドを見上げる。
「ああ…ごめん。お前の友達だもんな。悪い奴じゃないよな、うん、きっとそうだ」
 去って行くレンリを警戒するあまり目が離せないまま、サージェイドに向かって言った。
 席に座り直して、改めて店内を見回す。木造の内装で、壁際にある棚には小物やガラス食器が並べて置いてある。どこからか、ゆったりとした曲調の音楽が聞こえていた。
 小さなベルの音と共に扉が開き、何組かの客がやってくる。そのたびにサラとレンリは元気に挨拶をして店内を動き回っていた。
 カウンターの奥で忙しそうに料理を作っている男性、サージェイドが言った「てんちょ」という人と目が合うと穏やかな笑顔で手を振ってくれたので、軽くお辞儀をして手を振り返した。とても人柄の良い優しそうな人だった。
 サージェイドが人間に化けられるのだから、あの人たちも本当はドラゴンなのだろうか。
「もしかして、あの人たちはサージェイドの仲間か?」
「うウん。サラとてんちょは人間。レンリは死神」
「死神!? 初めて見た…」
 裏返った声を上げてしまい、ライエストは気恥ずかしくなって手の甲で口を隠した。
 死神ってああいう感じなのかと、レンリの様子を思い出す。でもあれなら、死んだときに後悔も苦悩も感じる前にさっさと連れていかれてしまいそうで。怖くはないのかなと思うと同時に安心してしまった。
 横目でサージェイドを見ると目が合った。サージェイドは無邪気な笑顔で目を細める。見知ったドラゴンの姿ではないけれど、いつも傍にいる感覚は何ら変わらなかった。
 仲間を探すと言ったのになかなか見つけられなくて、いつも助けてもらってばかりで不甲斐ない自分を、サージェイドはどう思っているんだろう。
「あの、さ…」
 どう話を切り出そうか迷っていると、サージェイドはそっと真っ白な手を重ねた。赤い瞳に迷いはなく、真っ直ぐにライエストの灰色の瞳を捉える。
「サージェイドは、ライの”ドラゴン”だかラ」
 その言葉は、何の飾り偽りも無い純粋そのもので、全てを許してくれた言葉だった。
「サージェイド…」
 じわじわと感極まって目が熱くなる。我慢できずにサージェイドに抱き着いた。
「ありがと! 俺、頑張るから!」
 人間の姿のサージェイドは、温かくも冷たくも無い不思議な体温だった。サージェイドが「ウん」と背中をぽんぽんと叩く。
「おい、そういうのは店出てからにしろ」
 レンリが呆れた顔になる。その隣りではサラが両手で顔を覆い、少し開いた指の隙間からこちらを見ていた。
 よく分からないがこの店でサージェイドに抱き着くのはダメらしい。死神様がそう言うなら従っておこうと思った。
 その後、サラが運んできた料理を食べて驚いた。初めての味だったけれど、とても美味しくて感動した。てんちょの料理は大きな国の王宮料理家としても腕を振るえるんじゃないだろうか。
 サージェイドとささやかな談笑を交えながら、ライエストは思い出したようにサラの方へ目を向けた。サラはせわしなく動き回っている。春の日差しのような優しい笑顔に呆然と見とれながら、記憶の中に一致する人物がいないか探していた。
 一方、サラはライエストの視線に気づいて顔を赤らめる。ぺたぺたと自分の顔を触り始め、レンリを見上げる。
「私、変な顔してる? 顔に何か付いてる?」
 恥ずかしそうに言うサラにレンリは「オマエはいつでもキレイだろ」とさらりと言い放った。サラの顔がますます赤くなり「そ、そうじゃなくて…」と口ごもった。
 レンリが無表情でつかつかと近づいてきて、水入りグラスをドンとライエストの前に置いた。
「…飲めよ…」
 凄みのある低い声で耳元で囁かれて、ライエストの体は硬直した。
「ゴメンナサイ。飲ミマス」
 がちがちに固まった声で言葉を返し、慌てて出された水を一気飲みする。何が何だか分からないが、死神様がご立腹なのは分かる。前言撤回したい。死神はやっぱり怖い。
 気が済んだレンリはふんと鼻を鳴らしてサラの所へ戻って行った。
「あ…」
 ふいにライエストは声を漏らして晴れた表情になった。
 サラのことを思い出した。夢で見たんだった。夢の内容は忘れてしまったけど、確かにサラの顔だった。でも、雰囲気が全然違うような。夢で見たサラはもっと、こう…。
 忘れていたはずの夢の内容を断片的に思い出して、だんだんと顔が熱くなってきた。夢で見た妖艶で扇情的なサラの姿がちらつく度に、段々といたたまれない気分になってくる。
「いや、夢だし!」
 ライエストは声を張り上げた。
「ライ?」
 サージェイドが首を傾げる。
「俺、前に変な夢みた!」
 テーブルに顔を伏せる。サラに申し仕訳けないし、友達であるサージェイドにも申し訳ない。かなり一方的で申し訳ない。あんな愛嬌のある純情そうな女の子が夢の中の女の子と同じはずがない。どうして会ったことも無い人の夢を見たんだろうか。
 ライエストは腑に落ちないまま、一日を過ごすことになってしまった。