竜使いと白いドラゴン8 ~悪魔の孫~

「あー、肉食べたいな…」
 ライエストは木漏れ日の注ぐ森を歩きながら、焼いた真っ赤なキノコを齧って呟いた。
 書庫の国を目指して、南の方へ針路を取って2日ほど進んだ。
 ナティローズに会ってから、草ばかり食べさせられていた。いい加減、肉を食べないと気が滅入ってしまいそうだった。しかし、狩りをしようにも、そもそも獲物と出会っていない。
 隣りにはサージェイドが木の実をもぐもぐしながら歩いている。サージェイドは木の実でもキノコでも選り好みせずに食べているようだった。
 進行方向にある木に青いキノコが生えていて、サージェイドは青いキノコの匂いを嗅いだ。
「そのキノコはやめておいた方がいいぞ。舌が痒くなるやつだから」
 ライエストはサージェイドを注意する。サージェイドは素直にライエストの隣りへ戻った。
 木の隙間から、双子の太陽が見えて、ライエストは顔を顰めた。
「特に理由は無いんだけどさ、あの双子の太陽…。俺、小さい方の太陽が大嫌いなんだ」
 物心ついた時からか、太陽という存在を認識できるようになった頃からか、どういう訳か双子の太陽の小さい方が嫌いだった。世界を明るく照らしてくれる大切なもののはずなのに。
 サージェイドも上を見て目を細めた。グルルと少しだけ唸り声を出す。
「あー、サージェイドは嫌いにならなくていいんだぞ。多分、俺が変なだけだから。…でもいつか、あの小さい太陽、矢で撃ち落とせないかな」
 密かな夢であり、目標になっている。どれくらい練習すれば届くだろうか。
 時々目に入る木漏れ日に目を細めながら、森を見回す。
「この森、何で動物がいないんだろうな。森の精霊が死んだのか?」
 森は不気味なくらい静かで、小鳥すらいない。
 ふわりと吹いた風に、苦みと生臭さを感じて風上の方を向く。
「焼け跡と…血…? 何かあったのか? サージェイド、行ってみよう」
「クァ」
 不審に思ったライエストはサージェイドと風上へ足を速める。暫くすると森を抜けて、広い小麦畑の半分近くが焼け野原になっていた。焼けた民家も点在しているのが見える。
 その小麦畑を見て、ライエストはトルゥパ村のセイラばあちゃんを思い出した。村では珍しい、純血の人間で、パンの作り方を村に教えてくれた。ライエストも毎年の小麦の収穫の手伝いをしていた。虫がいっぱい出てくるのは嫌だが、小麦の束のかさかさとした音は耳に心地よくて好きだった。
「山火事とかじゃなさそうだな」
 森の動物がいなくなっている理由は、ここにありそうだった。
「クァ!」
 サージェイドが鳴いて、森の方に顔を向けて走り出す。
「どうしたんだ?」
 ライエストはサージェイドの後を追った。
 少し森を進んだ辺りで、遠くから声が聞こえてきた。
「そこ行く人! こっち、こっち! こっちですよー!」
 軽い口調で呼ぶ声がする。サージェイドと声の主を探すと、ぽつんと小さな檻が置いてあり、その中に人影があった。ライエストと同じ年くらいの、腰に布を巻いただけの少年がうつ伏せの状態で上半身だけ檻の中でに閉じ込められて手招きをしている。よく見ると、その少年の灰色の髪の隙間には獣のような耳と小さな角が生えていて、細長い尻尾を生やしていた。
「何してんだ、お前?」
「何って、困ってるんだよ。見て分かるだろ? こんな狭い檻に閉じ込められて、カワイソーって思わない?」
「そうか?」
 ライエストは聞き返した。檻に閉じ込められている少年はあまり困った様子ではないが、本人が困っていると言うのなから、困っているのかもしれない。
「な? な? 助けてくれよー。頼むよー」
 少年は細い尻尾を振りながら手を合わせる。
 ライエストは少年に言われるまま、留め金を外して、檻を開けた。
「ひひひ、ばーか!」
 少年は檻から飛び出すと、獣のように両手両足で走り出した。
 …が。
「きゃいん! ぎゃああああッ!」
 数メートル走った所で、悲鳴を上げて止まった。
 ライエストはサージェイドと顔を合わせて、走り去ろうとした少年の所へ向かう。
「もう1回訊いていいか。何してんだ?」
「助けてください…。すっごく痛いです…」
 少年は虎バサミに左手を挟まれて涙目になっていた。
 獣のような少年を助けてやると、少年はその場に胡坐をかいて、血の出た左手首をぺろぺろ舐める。その血の色はやや紫色がかった赤色だった。
 ライエストは怪我が気になって、少年の前に座った。骨は折れてなさそうだった。
「助けてくれて、どーも。いやー、慌てて逃げて損しちまった。アンタも混血だよなァ?」
 少年はケラケラと笑いながら言う。
「何で分かったんだ?」
「だって、ほら」
 少年はいきなりライエストの角を掴んだ。
「放せよっ」
 ライエストは少年を押し返して、角を隠すように頭に手を当てる。
「オレのとは違うけど、角生えてんじゃん」
「……」
 ライエストは半眼で少年を睨む。どうやら、頭に巻いていた帯布がずれて見えていたらしい。すぐに巻き直す。
「ま、見てくれもそうだけどさ。オレ、鼻がいいんだぜ? だから分かっちゃうだよな。アンタは人間と……………トカゲ?」
「トカゲじゃない」
「え~? だってトカゲに似た匂いしてますよ?」
「……竜だし」
「ほら当たった! でっかいトカゲじゃーん!」
「だから、トカゲじゃない!」
 ライエストが反論すると、少年はヒラヒラと手を振った。
「冗談だっつの。怒るなって。な? 混血同士、仲良くしよーぜ。オレ、ルガルーってんだ。ヨロシクなー」
「……」
「無視するなよ!? ヒドーイ。礼儀知らずー」
 ルガルーと名乗った少年は、わざとらしく口を尖らせて拗ねた態度をとった。
「俺はライエスト、こっちはサージェイド」
 ライエストは早口で言った。ルガルー名乗った少年のこれまでの言動に少し腹が立っていたが、こういう奴なんだと諦めることにした。ルガルーの様子を探ると、微弱だけどピリリとした魔力と、狼の匂いが感じられた。
「ルガルーは何で檻に入ってたんだ?」
「訊きます? 美味しそうな兎が置いてあったんで、取ったらガシャーンって閉まっちまったってワケ。可哀想なオレ!」
 ライエストに尋ねられたルガルーは、大袈裟な身振り手振りで話す。
「動物用の罠に引っかかるなよ」
「それ言わないで、恥ずかしい…」
「お前も混血なんだろ? 犬の。だから捕まったのかと思った」
「犬ってオレのことかよ? ブッブー! はい残念ハズレー! 人狼でぇ~す!」
「人狼だって犬の親戚みたいなものだろ」
「さっきトカゲって言ったの根に持ってるね!? 謝りますよ、悪かったってば」
 ルガルーが耳を伏せて謝る。それを見てライエストは仕返しできたと満足した。
「ライエストさ、竜だろ? 竜って聞いたことあるけど、詳しく知らないんだよ。どんなやつ?」
 ルガルーは興味津々のようだった。
「んー。竜っていっても、いくつか種類があるな」
 ライエストは興味津々なルガルーに説明を続ける。
「ワイバーンとか応龍とかの飛竜系は、翼が大きくて空を飛ぶのが得意だな。ドラゴン系は、サージェイドみたいに体がしっかりしてて丈夫だぞ。飛べるのと飛べない種類がいる。雷龍とか水龍とかの龍系は蛇みたいに長い体に小さい手足が生えてる。魔法が使えるし賢いんだ」
「へー、そっかぁ。牛だと思ったけど、サージェイドってドラゴンか! 初めて見た!」
 ルガルーは目を輝かせてサージェイドを見る。サージェイドはそれに応えるように、その場でくるりと体を回して見せた。
「じゃあ、ライエストはどの竜の混血?」
「俺の先祖は、竜神様だな」
「竜神サマ?」
「竜たちを創った竜だって教えてもらった」
「それじゃあ、ライエストって王子サマじゃん」
「俺の村、みんなそうだぞ」
「じゃあ王族一家だ」
「何か…違う気がする…」
 ライエストは、食い入るように話してくるルガルーと会話する内に、何だかよく分からなくなって首を傾げる。
「ルガルーはさ。人狼だって言ったけど、ちょっと違うよな?」
 ピリリとした魔力は人間のものではないし、人狼に魔力は無い。それが不思議だった。
「あれ? 気づいちゃうかー。竜の血が騒ぐってやつですかい?」
「弱いけど、ピリピリした魔力を感じる。人間の魔力とは違う感じがする」
「ひひひ。もし当てられたら、いい子いい子して褒めてあげちゃいまーす!」
「いや、教えてくれよ」
 ふざけているルガルーに呆れて、ライエストは苦笑いする。
「オレはちょいとばかし複雑でさぁ…」
 ルガルーは足をバタバタさせて目を逸らす。
「昔でもないけど、悪魔と人間が恋に落ちました。生まれた娘は幸運にも生き延びました。やがて娘は人狼と人間の混血と結ばれました。はい、そしてオレ誕生! 混血と混血の混血! 類稀なる罪深い存在が生きてますよ! まさに奇跡! もちろん悪い方のなァ! ひゃはははっ!」
「悪魔ってほんとにいるのか?」
「そっちにツッコむのかよ。上位魔族の中に悪魔もいるんですよー?」
「あー、魔族か。だから血の色が…」
 ライエストはルガルーの血が少し紫っぽい色だった事に納得する。魔族の血は青色だと大人たちに教えてもらった。このピリリとした魔力は魔族のものだと覚えておこうと思った。
「悪魔って、悪いことするのか? この近くで村が焼けてたぞ」
「はいきた! 偏見! 悪魔って怖くて悪いコトするって思われてる!」
 ルガルーは待ってましたとばかりに手をパンっと叩いて、にやにやと笑う。
「悪魔ってのは、とぉ~っても優しいんだぜ? 甘~い言葉で人を惑わし、心の奥の欲や衝動を引き出してあげてんの! 人が抑えて隠そうとしてる欲求を外に出すお手伝い! な? いいヤツだろ? ま、その結果までは責任持ちませんケドね?」
 ケラケラと笑っていたルガルーは、急に表情を消して溜め息をする。
「村が焼けてんのは、オレのせいかもな」
「じゃあ、やっぱり…!」
「はいはい、オレが原因ですぅ~!」
 ライエストが疑いの眼差しを向けると、ルガルーは開き直って両手を大きく広げた。
「でもよ、言い訳させてくれよ! オレだってどんなに憎まれても疎まれても石投げられても、殺されるのはゴメンだ! アンタだって混血なんだから分かるだろ?」
「それは…」
「人間に捕まったら何されるか知ってるか? まず、逃げられないように手足の腱を切られる。叫び声が煩くないように舌を切られる。手足の爪を剥がされて、指を1本1本切られちまう。歯を全部抜かれて、耳は削がれる。目を潰されて、殴られる蹴られるの大盤振る舞い! 全く嬉しくないフルコース! 欲しくも無いおかわりも付いてるよ!」
「そ、そんなことされるのか…?」
 ライエストはルガルーの話に震え上がって自分の体を抱く。無意識にサージェイドに体を寄せた。
「怖いだろー? 怖いよなァ? でも村を焼いたのはオレじゃねーんだぜ? 村同士で争っちまってるんだ」
「どういうことだ?」
 事態が読めずに、ライエストはルガルーに説明を求めた。
「オレはこんな身の上だからな。当然、人間たちは放って置いてくれないワケですよ。オレってば人気者! そんでさ、ラム村とロム村っていう、それはそれは信仰心の強~い村があって、悪魔許すまじ!混血滅びろ!って躍起になってんの。神の使いの天使サマに褒めてもらうには、悪いヤツをコテンパンにしなきゃ!…ってな。で、俺はラム村に捕まっちまってさー。散々酷い目にあわされて殺される運命! オレってばピンチ! どうにかこうにか逃げ出したワケです。そしたらよ、ラム村の連中は隣り村のロム村が悪魔を連れ去ったんだって勘違いしちまったんだよ。ロム村の連中は悪魔を匿うなんて天使サマのご意向に背くワケねーだろ不名誉だコノヤロウって怒っちゃったのよ。ラム村もロム村も天使サマに褒めてもらいたい一心で必死になっちゃってさー。…で、争い始めちゃったんです」
 ルガルーは身振り手振りを交えて、他人事のように説明した。
「…それ、どうするんだよ…」
 事の大きさにライエストは青ざめる。
「天使ってどこにいるんだ? 天使に頼んで、争いを止めてもらおう」
 天使という存在は、以前に死神を怒らせたヘンリックが造った彫像を見たから、姿だけは知っている。
「アンタ、マジで言ってんの? 悪魔は魔界にいますけどね、天使がいるかどうかなんて分かんねーよ」
「え? じゃあ、その村の人たちは、どこにいるかも分からない天使を信じてるのか?」
「そーゆーコト」
「どうやって争いを止めればいいんだ…」
 途方に暮れるライエストを見て、ルガルーは詰まらなさそうに息を吐く。
「アンタさ、何でそんなに考えるの? ライエストの村じゃないじゃん」
「村が争ってると、この辺りの森の動物が逃げる。今、この森に誰もいなくなっちゃっただろ?」
「ライエストはこの森に住んでんのかよ?」
「俺は通りかかっただけ」
「じゃあ関係ない。部外者じゃん。さっさとここを離れようぜ?」
「このままじゃ、森の精霊だって困るだろ」
 ライエストの表情は段々と険しくなってきた。
「どうだっていーじゃん。人間が悪いんだし」
「ルガルーはどうするんだよ?」
「どうするも何も、オレは逃げますよ? 見つかったら今度こそ危ない。アンタには感謝してる。危うく動物用の罠でアホ丸出しで見つかっちまうところだったしな。じゃあな!」
 ルガルーは立ち上がって去ろうとする。
「おい、待てよ」
 ライエストはルガルーの腕を掴んだ。無意識に手に力が入る。
「獲物がいないと狩りができない。…俺は腹が減ってるんだ」
「はい?」
 急に様子が変わったライエストは目が据わっていた。ルガルーはその異変にぞっとした。
「俺は肉が喰いたくてイライラしてんだよッ…!」
「ラ、ライエスト…? アンタ穏和そうだけど、もしかして腹が減ると豹変するタイプ…?」
 ルガルーは背筋が寒くなって身を退く。
「クァ」
 サージェイドがライエストとルガルーの間に頭を入れる。
「あ…」
 ライエストは我に返って、ルガルーの手を放した。
「おー怖い。食われるかと思った」
 ルガルーがわざとらしく身震いする。
 ライエストは長い溜息をつく。が、次の瞬間、鋭い眼光で空を見上げ、弓を構えると間髪入れずに矢を放った。矢の刺さった白鳥が落ちてくる。
 ルガルーはその様子をぽかんと見ていた。
「いいこと思い付いた」
 と、ライエストは目を細めてルガルーを見た。
 
「おいおいウソだろ!? 今の流れでこんなコトします!?」
 焼け残った民家の柱に縛り付けられたルガルーは、大声で叫んでいた。
「ライエストさーん? 近くにいるんですよね!? オレのコト見捨てたりしないよな!? オレたち友達だろ!?」
 きょろきょろと辺りを見回すが、誰もいない。
「薄情者! 冷血! やっぱりトカゲだアンタ!!」
 遠くから人の騒めきが聞こえて、ルガルーは耳をぴんと立てた。
「ロム村の人、来ちゃったよ!? なぁ、聞いてる!? オレ見つかっちゃうじゃん!」
 村人たちはルガルーに気付いて近寄って来た。
「恨むぞ!? オレもうすぐ死ぬだろうけど、一生恨んでやるからな!?」
 ぞろぞろと集まって来た村人たちに囲まれて、ルガルーは足をバタバタとさせた。
「悪魔のやつ、何でこんな所に縛られてるんだ?」
「誰か、ラム村に知らせて来い」
「はいはい! 悪魔を裏切るような巨悪がいるんですよ! アンタらも気を付けたほうがいいぜ!」
 程なくしてラム村の人たちも集まり、辺りは騒然となる。ルガルーは縮こまりながらぎゃあぎゃあと文句を言い続けた。
「おい、何だあれ?」
 村人のひとりが、声を上げて空を指差す。
「白い牛が飛んできたぞ!」
「誰か乗ってる!」
 空から飛んで来たのは、サージェイドに乗ったライエストだった。その背中には真っ白な翼が見える。
 どよめく人々の真上を通り過ぎ、ルガルーが縛られている柱の上で滞空する。
「天使…だぞ」
「クォン!」
 ライエストはぼそっと呟くように言った。サージェイドが注目を集めるように鳴く。
「悪魔を捕まえたのは褒めるぞ。村のみんな、よく頑張ったな」
 棒読みで言うライエストに、ルガルーはぶふっと噴き出した。
 村人たちは慌てふためき、ひとり、またひとりと膝を折って頭を下げ始めた。
「でも、その悪魔は危ないから、俺が連れて帰る。お前たちはお互いに協力して村を直して、仲良く暮らすといいぞ。あと森の精霊に迷惑かけないようにな」
「クァ」
 サージェイドが尻尾の先でルガルーの縄を切ると、そのままルガルーに尻尾を巻きつけて拾い上げた。
「小麦作りも頑張って」
 そう言い残して、ライエストはルガルーを連れてサージェイドとこの場を去る。後ろから天使様だとはしゃぐ村人たちの声が聞こえてきて、ライエストは安堵した。
 村から十分離れた所で、森の中へ下りると、着地するなりルガルーは腹を抱えて大笑いした。
「ぎゃはははっ!! 何さっきの! 棒読み! 演技下手かよ! 腹痛ぇ!」
「仕方ないだろ、あんなことしたの初めてだし…」
 ライエストは顔を真っ赤にして俯いた。外套の下から天使の翼に見せていた白鳥を取り出すと、羽毛を毟り始める。
「白鳥の翼でも、村の人たちは信じたみたいだな。ルガルーも喰うか?」
「オレ、鳥は食べないんで、エンリョします。…それよりさー! 助けてくれるんだったら、最初からそう言えよな! オレ、ホントに泣いちゃうトコだったよ!?」
「ルガルーは演技が大袈裟になりそうだったし」
「はーい、オレもそう思いまーす!」
 ルガルーは肩を竦めて舌を出した。
 ライエストは白鳥の肉を焼きながら、ルガルーを見上げる。
「ルガルー、もしよかったら、俺の村に来ないか?」
「それ何の告白? プロポーズ? オレを嫁にしたいの? それとも嫁にされたいとか? 物好きにもほどがあるよね!?」
「そうじゃない。俺の村は山奥にあるから、人間は滅多に来ないんだ。だから安全だと思う」
「ああ、そーゆーコト…」
 ルガルーは頭を掻く。
「オレ悪魔ですよ? 狼に変身もできない人狼ですよ? 自覚は無くても周りに悪いコトさせちまうんだよ。命の恩人の故郷で悪さしたくないじゃん?」
「でも…」
「…分かるだろ? 独りでいた方が世の中のためなんだよ」
 ルガルーは薄く笑って、背中を向ける。
「ありがとよ。生きてたらまた会おうぜ、竜の王子サマ!」
 と、ルガルーは両手両足で走り出した。
 ライエストとサージェイドは、森の奥へ姿を消すルガルーを静かに見送った。
 
 
 
 
 
つづく

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