誕生日

2004/04/06


「出掛けてくるよ」
短く小さく、言い捨てるようにだけ言って、アーミィは立ち上がった。
「ドコにだ?」
窓の縁で寝そべっていたグラビティが頭を起こす。
「仕事は、明日だろう?」
それに遅れるように、エレクトロが配線コードの整理している手を止めた。
「どこか」
わざと意地悪く答えないで、アーミィは二人に背を向けた。





数時間後。


「帰って来た…」
アーミィの発信機を探知して、エレクトロが声を出す。
暫くして、足音が近付いて来た。
しかし、いつもの軽く素早い足音では無く、ゆっくりとしたものだった。
ただいまの声と共に、アーミィが現れる。
三つの箱を重ねて、大事そうに抱えていた。
「買い物かよ」
グラビティが重そうに持っているアーミィから、ひょいと箱を持ち上げて机に置いた。
「静かに置いてよ」
箱を気にして、アーミィはグラビティの脇腹を肘で突く。
「そんなに荒く置いてねぇよ」
口を尖らせるグラビティを横目で一瞥して、アーミィは重なっている箱を、机の上に並べて置いた。
その箱のひとつを開ける。
出て来たのは、チョコレートケーキだった。
「ケーキ? どうしたんだい、それ?」
エレクトロが目をぱちぱちしながら問う。
アーミィは、その問いには答えず希薄な表情で笑った。
「エレクはこれ」
もう一つの箱を開ける。
中にあったのは、果物の沢山乗ったフルーツタルト。
「フルーツ、好きだから」
「わぁ、綺麗だね。この赤いの…さくらんぼ、大好きだ」
嬉しそうににサクランボを指差すエレクトロ。
「グラビティはこれ」
最後の箱を開けると、出て来たのは丸いスフレチーズケーキ。
「あんまり、甘く無いのだって」
「ん…」
自分の肌の色に似たケーキをまじまじと見るグラビティ。
言葉には出さないが、喜びの表情の浮かんだ顔をする。
「今日、誕生日」
エレクトロとグラビティにフォークを手渡して、アーミィは言った。
「…え?」
「はぁ? 誰の誕生日だよ」
「僕らの、誕生日」
「俺は、いつ造られたかの正確なデータは無いが…」
「オレも、誕生日なんて知らねぇぞ」
理解不能の表情を浮かべる二人。
「僕が決めた」
と、はっきりと大きな声の答え。アーミィにしては珍しい声だった。
「施設から逃げ出した日だよ。僕らが自由になった日」
目を閉じて、いつもの小さく淡々とした声に戻す。
「自分が、自分として生きられるようになれた日だから…」
言い聞かせるように、ゆっくりとアーミィが言った。
エレクトロとグラビティは顔を合わせた後、アーミィを見て笑顔になる。
「そうだった」
「ああ、大事な日だな」





その日の夜。
三人は微妙な顔つきでケーキとにらめっこをしていた。
それぞれの目の前には食べきれて無いケーキ。
8号のケーキは、数人で食べるものだとは知らず、胃もたれと格闘していた。





終わる

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