MS#2擬人化


お話

☆メンデスに会う前の4人の、ちょっとしたお話

2008/04/19

「・・・メンデス様って…どんな人かな…」
 呟くような小さな声で、イカロスが言った。ふわりと宙を舞い、音も無く地上につま先を着ける。
 荒れ果てた地上には、見覚えた仲間たちの姿と、もう魂の入っていない入れ物ばかりが覆っていた。
「さぁね。まだ会った事も無い奴が僕たちの上司だなんて、馬鹿みたいな話だよ。本当にそんな奴を護らなきゃいけないだなんてさ」
 赤い髪を揺らし、明らかに呆れた様子で、鉄針が言葉を吐く。先ほどの戦闘で気が立っているのか、蠍の尻尾を高く挙げたまま揺らした。
 その鉄針の肩を軽く叩くレオン。
「邪険にするでない。とても大事な御方なのだろうからな」
 そう言いながら、返り血の付いた身体を払う。しかし、乾いた血は大して拭えそうも無く、湯が浴びたいと独り言を言った。
 イカロスは、すぐ近くの、僅かに赤く濁った湖の前で身を屈めた。
「・・・イカ野郎、まだ…?」
 その声に、慌てて水面からひょこりと、ドゥーイが顔を出す。
「水の中から逃げようとしたの、全部追撃してきた」
「・・・遅い…」
「お腹空いたから、魚獲ってた」
 特に悪びれる訳でもなく、仲間皆に魚を投げて渡す。
「ちょっとぉ、スルメちゃん。そんな湖の魚なんか食べたら、お腹壊すよ!」
 鉄針が、魚を投げて返す。その様子にイカロスとレオンも納得して、魚を湖に帰す事にした。帰した所で、この湖で魚が生きていける環境かどうかまでは、解らないけれど。
「腹も空いた事だ。早く帰ろう。飯は基地にもあるから、ここで獲らなくてもいいだろう」
 レオンがドゥーイを湖から引っ張り上げて言う。
 ドゥーイも同感して、頷いた。
「メンデスさま、男の人」
「誰から聞いたんだ?」
 ドゥーイの話に、レオンは目を丸めた。イカロスも興味があるらしく、真剣な眼差しを送る。
「昨日、隣の部屋で話し声した。今日の戦闘、内緒で様子見に来るって」
「スルメちゃん、そういう大事な事は先に言ってよね! 僕、手抜きして戦っちゃったよ」
 鉄針が、ドゥーイの頭を小突く。
「どぅ~…」
「いつも本気で戦わない鉄針が、悪いぞ」
 レオンは鉄針とドゥーイの間に入る。
「今日の戦闘を見に来て下さったと言う事は、もうすぐ御会いできるかもな」
 そっとイカロスの方を見て、レオンは笑顔を浮かべた。
「・・・うん…」
 イカロスは目を細めて微笑んだ。

☆4人に会う前のメンデスの、ちょっとしたお話 …メンデスの義理の姉である冥が出てます(笑)

2008/04/21

 何十枚も束ねられた書類に目を通すのも飽きてきた頃、部屋に見慣れた者が入ってきた。
「冥姉さん」
「あなたも戦闘に出るようになるのね。早いものだわ」
 義理の姉は、しみじみとした様子でこちらを見る。
「メンデス、ひとつだけ言っておくわ。覚えてらっしゃい」
「何?」
「仲間を失った勝利は、虚しい事である…と」
「…」
「ラボでは、部下を犠牲にしてまで生き残る事を優先するべきと言っているけれど…。それでは駄目なのよ」
「何がいけないんだ? 冥姉さんは生き残れただろう」
「私がスクスカを失った時の事、覚えているでしょう? …スクスカは優秀だったわ。最期まで、私に尽くしてくれた。私にとっては、大事な部下だった…」
 義姉の部下の事は少し知っている。禍々しい化け物のような姿ではあったが、能力も高く、義姉にとても従順だった。
「冥姉さんが、何故そんなにスクスカを大事に思うのか、解らないな。部下を失ったら、新しい部下が配属される。・・・部下なんて、捨て駒みたいなものだろう? そんなに執着するなんて…」
「そうね。あなたには、まだ解らないでしょうね。でも、失ってからでは遅いのよ。これは執着ではないわ。『信頼』というものを知りなさい」
 義姉は、そっと頭を撫でてきた。大人しく撫でられるのも気が引けて、すぐ首を振る。
「私、もう子供扱いされる歳では…」
「ふふ。私は歳をとれない身体だけれど、何年経っても貴方の義姉よ。素直に撫でさせて」
 義姉は少し意地悪く笑った。
「部下と共に居られる時間を、大事にしなさい。あなたも、きっと解るはずだから。…そして、生きなさい。あなたは部下と一緒に生き残るの。約束しなさい。解った? 約束を破ったら、許さないわよ」
「はい…」
 義姉の言う事の真意は理解出来なかったが、痛いくらい真剣な様子が、印象に残った。
「そうそう、メンデス。あなた、身体のメンテナンスにをしに、時々ここに戻ってくるんでしょう? その時には、あなたの部下の話を聞かせてちょうだい。楽しみにしているわ」
 そう笑顔を残して、義姉は部屋を出て行った。
 ふいに、義姉が部下を失った時の事を思い出す。
 誰にも負けないくらい強くて気丈な義姉が、血なまぐさい凄惨な姿の部下を抱いて、周りの目も気にせずに泣いていた。義姉自身だって酷く傷ついた身体であったのに、そんな事すら忘れたかのように。
 あんな義姉を見たのは、生まれて初めてだった。
 あの時、どこか他人事のように居合わせてただけの自分が、いつか義姉と同じ思いになるとは思えなかった。
 あの日以来、義姉は新しい部下の配属を断ってきた。
 私の部下はスクスカだけだから、と。
 理解出来ない事を無理に理解しようとするのは、無駄な事だと思う。
 自分の部下と、まだ会った事は無い。書類に書かれたデータか、話に聞くだけで、顔も知らない。
 時が経てば、少しは義姉の言った事が解るだろうか。

 数日後、部下の戦闘を見に行くように、指令が出た。
 理由など無いはずなのに、自分は微かに心待ちにしていたのかもしれない。
 珍しく心が逸るのを感じた。

メンデス様とステキな仲間たち1

2008/04/30

初日から内心ヒヤヒヤ。
メンデスはラスボスとして生まれたので、態度デカいですが、実はとっても繊細でナイーブなのです。そして、自分にマイナスな事があると、口が悪くなります。
鉄針は、ちょっと自己中で悪戯好きで、もの凄くマイペースなだけです(笑)

ちょっと暗いお話

2008/05/13

ありきたりな話っぽいけど、何か、こんなイメージなのですが。
ラスボスは複雑な気分なのです。多分。
我が家のメンデスは、本部の命令で戦闘してます。
しかも、攻撃力がアレなので殆ど単独戦闘。仲間が居ると、かえって邪魔になるという。



もう兎にしか見えない。
メンデス様とステキな仲間たち2

2008/06/01

レオンはとても真面目で真剣な人なので、本気でメンデスに付いて良いのか、メンデスの能力で判断しようとしている模様。
男は拳で語るべし(笑)
レオンは、想像していたよりもメンデスが若くて小柄だった事に、冷静に仰天(笑)

うずしおは、漫画描くのがかなり遅い上に、あまり上手くないという最悪な状態でございます。
もっと速い描写力が欲しいわ~。マジで。



やっぱり兎にしか見えない。

☆蠍の独り言

2008/07/31

名前はメンデスちゃんだって。
大規模戦闘を、独りで制圧。しかも、たった十数分で。ワンモアナンバーズのトップクラスの冥様が、手塩にかけて育てたって・・・そんな本部の裏話も風の便りに聞いていた。
でも、冥様の弟って、ハデスって名前だったような気がする。聞き違いかな。…ま、いっか。
よっぽど強い人だから、どんな厳つい大男が来るのかと思っていたら…。
来たのは、レオンちゃんよりも小さい優男、この人、ほんとに強いの?ってくらい。
でも、まぁ…偉そうな態度は人一倍だね。上に立つ人の威厳…と言うよりは、征圧するための威嚇って雰囲気。ツンケンだよ。
スルメちゃんは何も考えてないから一方的にメンデスちゃんに懐いたみたいだけど、レオンちゃんは納得できなかったみたいで、戦いを申し込んでた。やっぱりレオンちゃんが負けたけど。見た目と違って強いみたい。
イカロスちゃんは、じっとメンデスちゃん見てるだけだし…。
皆で楽しく話してると、メンデスちゃんは不思議そうな顔をして寂寞な態度で見てくる。そんな顔しないで、話に入ってくればいいのに。いまいち、はっきりしない人だね。
肉料理は好きじゃないみたいで、あまり食べなかったな。もしかして魚派?
次は魚料理作ってみよっと。
・・・でも、メンデスちゃんが来た所為で、これからもっと難しい戦闘に出るように本部から司令が来るんだろうな…。
もし…大事な仲間が死んだら、大泣きして、きっとメンデスちゃんの所為にしちゃうかも。メンデスちゃんって、笑った顔してくれないから、きっと冷たい人かもしれない…。部下の気持ちなんて気にしてなさそう。
メンデスちゃんって、何考えてるのかなぁ…。


☆冥がメンデスと初めて対話した日

2008/08/18

大勢の人たちが行き交う広い待合室。時々、呼び出しのアナウンスが流れていた。
 その待合室の端の長椅子に腰をかけて、冥は目を閉じて静かに待っていた。
 今日は、ワンモアナンバーズの候補の子供と初めて会う日。ワンモアナンバーズは、大群を率いる総司令官に就く場合もあり、自分自身が最終兵器でもある。
 そんな重役を育てる難役に、冥は選ばれた。
 冥自身も、HS軍のワンモアであり、その実力は他の追従を許さない程。今は任期を終えているものの、本部の命令により時には戦闘に出ていた。
 小さいながらも強力な気配を感じて、冥は目を開ける。
 その目線の先には、大人に手を繋がれてこちらに歩いてくる、幼い子供の姿があった。
 幼い子供の担当者は、長椅子に子供を座らせると、冥の前で一礼した。
 冥は立ち上がって、軽く挨拶をする。
「健康そうな子ね。強い力を感じるわ」
「はい、間違いなくTR軍のワンモアになれる可能性のある兵器です。現在、コードレベル6と認定されました」
「こんなに幼い頃から、コードレベル6? それは凄いわ。絶対に私と同じに12になれるわね」
「いえ、実は…冥様の弟と同期に作られています」
「え? ハデスと?」
 冥は、信じられなくて、幼い子供の方へ目を向けた。
 自分の弟とは年齢が違いすぎる。
「幼児期に不備による不具合がありまして…成長が一時停止していました。今は成長は再開しています」
「そう、見た目程子供ではないという事ね」
「申し上げにくいのですが…冥様の弟の方が、現段階では実力は上です。コードレベル7と認定されています」
「まぁ、驚いたわ。・・・でも、選ばれなかったのね…」
「ええ、残念ながら…。今後の成長を考えると・・・。一応、別部隊のワンモアにするという検討もされています」
「実力こそ全てだもの、仕方ないわ。この子は私に任せなさい。後でこの子の資料を送って。戦闘も、部下への指揮の執り方も、しっかり叩き込んであげるわ」
「宜しくお願いします」
 担当者が一礼をして待合室を去った後、まだ幼い兵器の方に振り返ると、「いつまで待たせる気だ?」と言わんばかりの不満げな顔が見える。
 冥は足早に近寄り、脚をぶらぶらと揺らしながら座っている、その小さい身体に目線の高さを合わせるように、身を屈ませた。
「待たせてごめんなさいね。私は冥よ。今日から、あなたの世話をするわ、よろしくね」
 そう言って微笑んでみるが、気を張った横目でじっと見詰め返されただけだった。
 気を許さないのは警戒心が強い証拠。警戒心の強い兵器は、良い兵器に育つ事も知っている。
 しかし、敵でもない相手に警戒心があるのは困る。
「あなたの名前、教えてくれる?」
「…メンデス」
 その名前が、自分の弟の名前に似ていて、少しだけ心が痛んだ。
「メンデスね」
 にっこりと笑顔で名前を呼ぶと、少しはこちらに興味を持ってくれたらしく、正面を向いて頷いた。
 興味といえば…担当者が連れて来た時から、冥は気になっていた事があった。
 このメンデスという子、白銀色の緩いウェーブヘアなのだが、その頭から生えている兎の耳に良く似たそれが何なのか気になって仕方が無かった。
 そっと頭を撫でながら、軽くそれに触れてみる。
「あなた、これは…?」
「さわるな」
 もの凄く嫌そうな顔をして、手を払われた。
「そう、それは触られたくないのね。ごめんね、もう触らないから」
 これ以上追求しても嫌われるだけだと判断した冥は、手を引っ込める。
 もう少し、仲良くなったら教えてくれるかもしれない。
 大人しく手を引いた冥に、メンデスは可愛気の無い表情で口を開いた。
「名前はメンデスなのに、時々『ヘイキ』と呼ばれる。『ヘイキ』って、何だ? お前、知ってるか?」
「それは・・・。あなた以外の子供も沢山いるわ。時々呼び間違えられているだけよ。気にしないで」
 とっさに思いついた返事をしてしまった。
 この子は、自分がどういう存在なのか、教育はされていなかったのだろう。
 兵器として育てるか、人として育てるか、それはとても重要な選択だった。
 人として育てて、戦う事に疑問を抱いてしまえば、兵器としては使い物にならなくなる。
 兵器として育てて、戦う事しか知らずに任期を終えたら、人として生きてはいけなくなる。
 どちらが良い選択であるか、それを見極めて、いずれは決めなければいけない。
 それが、この子の人生を大きく左右する。
 どちらにせよ、コードレベル12にまで実力が伸びなければ、廃棄処分されるだけ。この一番最悪の事態にだけはさせられない。
 何よりも、まず第一に・・・。
 随分と自由奔放に育ってきたようだから、まず基本的な教育の一歩。
「先に言うのを忘れていたわ。私の事は『お前』ではなく、『冥姉さん』と呼びなさい」
 一変して、冥は笑顔は見せずに、少し低く大きな声で、命令するように言った。
 メンデスはムッとした表情を見せたが、ここでそれを通させてはいけない。
「それと、目上の人には敬語を使いなさい。いいわね?」
 さっきよりも、厳しい目付きで強く言うと、メンデスは目を丸くした。
「え…あ…」
「返事をしなさい」
「う・・・はい…。…めいね…さん」
「良い子ね。教育しがいがあるわ」
 冥は満足して、メンデスの小さい手を引いて長椅子から立たせる。
 メンデスの頭にある兎の耳に良く似たそれが、力無く横に垂れているのが気になりつつ、冥は幼い最終兵器を自分の部屋へ連れ帰った。

---------------
★後に、「冥姉さんの教育は信じられないくらい厳しかった」と、メンデスは語るという・・・(笑)

☆冥姉さんと、義弟メンデスと、実弟ハデス

2009/03/31

黒の疾風と異名を持つ冥は、非常に強力なワンモアだった。
本部は冥をも超える存在を得る為に、冥の力を持つ者を生み出す事にした。
純粋なる系統として、冥の神通力の源となる血と細胞から、ハデスを。
冥の神通力を高圧エネルギー粒子に変換し、それを注入した細胞から、メンデスを。

将来の、強力な特殊ワンモア候補として同時に生まれた2人は、会う事無く、互いの存在も解らないよう、育てられる事となった。
ワンモアに選ばれるのは、どちらか1人だけだったから。

どちらがワンモアに選ばれるのか、本部の者も冥自身も予測がつかなかった。
生まれたばかりの時点で、ハデスは恐ろしいほどの力を備えていた。
物心つく前から、その能力は目覚ましい成長を始めた。
一方、メンデスの方は、神通力を使える状態ではなかった。
冥の力を持っているはずではあったが、本能的に神通力を使う事を拒否していた。半ば試験的に創られた、生体兵器としての身体が災いしたらしかった。
冥の力と細胞との相性が悪かったのだと、メンデス製作側のチームは判断した。
それでも、十分な強さを備えた生体兵器のはずであった。

もし、生体兵器が、神通力も使えるようになれたら。
それは、今までのワンモアを容易く超えるのではないだろうか、と。
そして、本部上層部は冥をメンデスの教育係とし、いずれは神通力も扱えるよう訓練するようにと命じた。
科学的に創られた存在に、正反対とも言える神通力を扱わせる事が、どんなに心身ともに負担となるか…この時には、誰にも解らなかった。

時が経ち、ハデスは、他のワンモアに劣らないほどの実力を付けた。
メンデスは、一時期、成長が止まるという不具合が出たが、ハデスと並ぶ力を持った。
けれど、どちらも冥の能力を超えるにまでは至らなかった。
どちらを時期ワンモアにするか、上層部は協議に明け暮れていた。

とある日、ハデスは、いつも留守がちな実姉の冥に、日々の寂しさから、言いつけを破って後を追った。
冥の行った先には、メンデスが居た。
冥は、メンデスをとても可愛がっているらしかった。
それから、メンデスが時期ワンモアであると、ハデスはどこからか噂で聞いた。
姉とワンモアの地位を、メンデスに奪われたのだと知った途端、ハデスはメンデスに対して、憎悪が生まれた…。

やがてメンデスは、特殊ワンモアに任命され、部下を持ち、時に全軍の指揮を執る事も任されるようになった。
自分は、他の者よりも優れた人間だと思っていた。
しかし、見ず知らずのハデスからの恨みに満ちた襲来を受け、自分の事を聞かされた。
他の人間と違うのは当たり前。創られた存在なのだから。
その事を知ったメンデスは、半狂乱状態になった。
それは同時に、冥の黒の神通力に目覚めの切っ掛けに。
黒の神通力を持ったメンデスは、冥の能力を遥かに超えていた。
その力は、側近の部下にまで、影響を与えた。

しかし…、本人の意思を超えた力は、無差別に近い破壊しかできなかった。
危険を感じた本部上層部は、メンデスを解任し、『TOOL』の施設に眠らせる事を決定した。

---------------

★一応、こういう筋書きが決まってる。
暫定的な大まか概要ってコトで。書くに至らないけど(苦笑)
『TOOL』ってのは小説で書いているエレクトロが管理する施設であり、そのシステムそのものの事です。

☆クラーケンの事。

2009/10/26

 昔の飼い主の言葉

 海より、ずっとずっと狭い水槽。
 始めは、狭くて嫌だったけど、慣れてきた。
 慣れてきたころに、身体の形が変わるようになった。
 大きな手術って言ってた。

「これ、ドゥーイの身体違う…。これ、人間と同じ?」
「そうだよ。メンデス様に仕える身なのだから、その姿でいなさい」
「メンデスさま? 誰?」
「お前が護るべき、大事な人だよ」
「大事…。ご主人さまより大事、いない」
「いいや、私よりも、大事な人なんだよ。私は、お前を育てるだけの者でしかないのだから」
「…わからない…」
「いつか解れば、それでいい」

「強くなりなさい。その姿である事が、お前にとっては足枷にしかならないが、その姿でいれば、クラーケンとして狙われる事は無いだろうから」
「どうして…?」
「クラーケンは、希少種なんだよ。もう…どこを探してもいない。クラーケンにとって、この星の海は、狭すぎたんだろうよ」
「海…は、クラーケン、いる」
「そう…であったら、いいのだけどね…」
 精一杯の無理をした笑顔のご主人さまは、そう言った後、頭を撫でてくれた。
 それから、ずっと、ご主人さまと会ってない。
 他の人に、ご主人さまがどこ行ったか訊いても、誰も教えてくれなかった。


 今は、メンデスさまがいる。
 ご主人さまと全然違う。わがまま、すぐ怒る、ちょっと怖い人。
 でも、ご主人さまと、同じ所があった。
 ドゥーイがクラーケンの姿に戻っても、怖がらなかった。
 そして、心配してくれた。
 この時、解った。もう、クラーケンはドゥーイしかいない事。
 でも、信じられないから、海中戦闘で敵と戦った日は、戦闘が終わったとき、仲間を呼ぶために深海で泳ぎまわって鳴いた。
 何回呼んでも、何日呼んでも、呼応がなかった。
 だけど、どうしてか、寂しくなかった。
 ドゥーイの帰る所は、海じゃなくて、メンデスさまのいる基地なんだと思う。
 鉄針も、レオンも、イカロスも、きっと同じ。
 だから、どんなに傷だらけになっても、帰ってくる。
 ドゥーイと同じ。
 メンデスさまを、護りに帰ってくる。

戻る


一覧に戻る