ある青年の世界
あらゆる矛盾を支配する。
あらゆる運命を掌握する。
あらゆる法則を操作する。
最初の仲間であり、最後の敵。
誤った選択を続けていると、見えてくる結末。
ある青年は、何の取り柄も無かった。いつもゲームばかりしていて、ゲームの主人公に憧れていた。
そんな日々の中、偶然に図書館で見つけた、古びた悪魔召喚の本。遊び半分、疑い半分で悪魔の召喚に成功する。現れた青い髪の【白い何か】は、青年の願いを叶えた。
魔物が蔓延る世界。人々は魔物に怯えながら暮らし、そんな中で一部の人たちが魔物と戦える。
青年はその世界で戦士になった。ゲームの世界のように剣と盾で魔物と戦い、勝利を収めれば強くなっていける。夢にまで見た世界に、青年は夢中になっていった。
しかし、そんな日々も長くは続かなかった。強くなり過ぎた青年は、魔物との戦いが虐殺のようになってしまい飽きてしまったのだ。それに、自分と同じように、強い魔物に太刀打ちできる戦士が一定数いるのだ。
そこで青年は、再び悪魔召喚の本を手にする。人間を滅ぼそうとする悪い魔王が必要だと確信した。誰にも倒されないように世界で一番強い魔王を世界に存在させて、それを倒せば自分が英雄になれる、と。
青年は【白い何か】に、望んだ通りの魔王になるように命令した。【白い何か】は禍々しい城を忽然と具現化させその最上階に住み、悪い魔王らしく振舞い世界を脅かした。
強かった戦士たちは魔王に戦いを挑み、次々と命を落としていった。その度に世界の人々は絶望し、英雄となる新たな勇者が現われることに期待を募らせていった。その様子に、青年は気分が良くなっていた。自分だけが魔王を倒せる勇者でなければいけないと思い、機会を伺っていた。
しかし、いざ魔王と対峙し、気付いてしまった。相手は世界で一番強く“誰にも倒せない魔王”であることに。自分が、そう望んでしまったから。
青年は慌てて悪魔召喚の本を開いた。けれど、魔王となった【白い何か】は悪魔としての制約が無くなっていて、従えることができなかった。
計画は崩れ目的は散り、青年は他の戦士たちと同じ末路を辿った。
かくして、世界は魔物たちが支配するようになり、魔王の役目を終えた【白い何か】は別の世界へと飛び立っていった。