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TOOL 9

「大丈夫か?」
 苦しそうな顔をしたエレクトロに声をかけると、エレクトロは、元の無表情な顔に戻った。
「データは、コピーされていない」
 教えられた言葉を、そのまま言うだけみたいな答えが返ってきた。
 このエレクトロというヤツは、こういうヤツなんだと、グラビティは何となく理解していた。たった一度、ほんの少しだけの会話で、そう感じていた。
「そうじゃねぇよ、オマエだ、オマエ。データとかコピーってのは、どうでもいい」
「俺の身体に、大きな破損は無い…が…」
 そう言ってエレクトロは立ち上がると、身体に繋がっているコードやケーブルを引き摺りながら歩き、四角い鉄の塊の前に座った。指先でスイッチを押して、巨大な鉄の塊に繋がっているコードを抜く。
「その四角い鉄、前に来た時は無かったな」
 記憶力の良いグラビティは、前に来た時には見当たらなかった、その装置に視線を向けた。
「この装置は、ホリックが持って来た」
 淡々とした口調で、エレクトロが答えた。
 ホリックという名は初めて聞く。初めて聞いたが、察しはついた。
 蹴り飛ばしたヤツだ。
「ホリック? ああ、アイツか。思いっきり蹴り飛ばしちまったな」
 そのホリックの方へ目線を移動すると、ホリックは壁からずり落ちて倒れたまま動かずにいる。一応は手加減したから、死んではいないだろうけど。
 グラビティは、後頭部を掻いた。
「だってよ、この部屋に入ったら、オマエとアイツが取っ組み合いしてるじゃねぇか。オマエ、苦しそうな顔してたからよ。悪いヤツだと思って蹴っちまったぜ」
「グラビティのお陰で、助かった」
「そか。良かったな」
 グラビティは、結果が良いなら問題ないなと思い、ニィっと笑った。
 すると、ほんの少しだけ、エレクトロも笑ったように見えた。人形みたいだったから、笑い方なんて知らないんだと思ってたけど、そうでもないらしい。
 興味という感情だと思う。グラビティは、鋼鉄の椅子に座り直したエレクトロにずいっと詰め寄って、顔を近付けた。同じ血色とは少し違う、真紅色の瞳孔の無い目がじっと見返してきた。
「オマエは、何?」
 途方も無い、非常に幅の広い問いかけ。けれど、そう訊く以外の他の言葉が無かった。
「俺は、『TOOL』の管理者。この施設の全てを統括、管理、監視を任されている」
 返ってきた答えは、やはり問いた質問の意図とは少し違ったものだった。
 もともと、期待なんかしてないからいいけど。
「グラビティ」
 ぽつりと、エレクトロが囁いた。顔が近いから、それに合わせて小声にしているのだろうか。
「何だよ」
「グラビティは、第7地区の実験体だ。実験体は許可証が無いと、地区の外へは出られないはずだが」
「え?」
「でも、実験体が脱走したという連絡も受けていない。…俺は、どうしたらいい?」
「は?」
 一瞬、何を言っているのか解らず、グラビティは小さな眉毛をハの字に変えた。
「通常は、監視カメラで実験体が逃げ出したのを確認し、警報を鳴らしてゲートの封鎖をするように命令されている。だが、グラビティが来る前は、ホリックの装置のせいで、その確認が出来なかった。もうひとつの確認として、研究員が実験体が脱走したという連絡をくれる事になっているはずだが、一度きりで、それ以降は捕獲した連絡も、脱走中の連絡も受けていない」
「あー…」
 グラビティは、あさっての方向に目線を向けて、エレクトロから離れた。
 そうだった。このエレクトロというヤツは、自分にとっての脱出の障害になる存在だった。次に研究員に捕われたら、逃げられる保証も無い。下手したら殺されるかもしれない。
 今ここで、殺してしまおうか。
 訳無い事だ。ぐっと力を込めて、頭を潰すだけだ。コイツが反応する前に、無警戒の今に。
 グラビティは、再び、そっとエレクトロに近付いた。
 ゆっくりと、僅かに震えた両手で、エレクトロの頭を掴む。手の平から伝わる、鉄の冷たさとほんのりと温かい髪の温度差が、奇妙な感覚を生んだ。心臓の鼓動が早くなるのが自分でも解る。
 何を躊躇っているんだろう。
「グラビティ、危ない」
 静かに言って、エレクトロは頭を掴んているグラビティの両手に手を置き、そっと手を外した。特に力も入れていないエレクトロの行動に、グラビティの手は素直にエレクトロの頭から離れた。
「ホリックにハッキングされた時に、ヘッドギアがショートして小さな損傷箇所ができた。感電する可能性がある」
 その言葉に、グラビティは、だらりと両手を下ろした。何の疑いも無い。恐怖心が無いのか、それとも警戒心が無いのか。その反応に、目の奥が熱くなった。
「悪ぃ、エレクトロ…」
「何故、グラビティが謝るのか、理解不能だ」
 グラビティは、部屋の中を見回して一呼吸おくと、エレクトロに向き直った。
「エレクトロ、頼みがあるんだ」
「頼み?」
「そうだ。オレは、この施設から出たい。出て、どうするのかは解らねぇが、とにかく出たい」
「それはいけない。実験体は、絶対に外に出すなと命令されている」
「だから、お前も、出るんだよ」
「俺は、ここから出られない」
「何で」
「俺は『TOOL』の管理者だ」
「それは、お前の考えか?」
「解らない。命令だから」
「何で、そこまでして命令に従ってんだよ」
「…解らない。考えようとすると、演算処理が遅れる」
「そんなに、大切な事なのかよ!」
 カッとなって、思わず怒鳴り声になってしまった。
 エレクトロは少しだけ目を大きくして、黙ってしまった。口を開いて、何か言葉を探しているようにも見える。
 マズイ事をしたと、グラビティは大きく息を吐いて、気を沈めた。
「お前よ、何がしたい? 命令ってのは無しで、自分で考えろよ」
「…解らない。…解らない、が…。グラビティと話していると演算処理が遅れるのに、もっと話していたい」
 それが精一杯の答えだったんだろう。僅かに困惑したような顔をしていた。
「グラビティ、怒っているのか?」
 エレクトロは、目の前に居るグラビティをじっと見上げて、小さく言った。
 グラビティは、何だか可笑しくなって、ふっと吹き出した。
「お前、何か、変なヤツだよなぁ…。でも、研究員から見りゃあ、お前みたいなヤツが当り前なのかもしれねぇ」
「俺は、本当に正常なのだろうか」
「え?」
「時々、原因不明の思考回路を支配するデータがある。それはどの地区のメインコンピュータにも無いはずのデータだ。いくらフォーマットし直しても、そのデータだけが消えない」
「お前の言う事は、難しくてよく分からねぇ」
「不鮮明な映像データがある。それはこの施設では無い別の場所のような風景で、白い部屋で俺は誰かに抱きかかえられている。それが誰なのかは分からない。…このデータが、消せない」
「それはデータとかってヤツじゃねぇよ。『思い出』ってヤツだ。大事にしろ。それだけは、何があっても忘れんじゃねぇぞ」
「うん、解った。思い出というフォルダを新規作成して、保存しておく」
 悩みが消えたのが嬉しかったのか、眩しそうに目を細めてエレクトロは笑った。
 グラビティは、その笑顔を向けられているのが、ちょっぴり照れくさくなって目線を逸らせる。
「さっきオレが言ったこと、言い換えるぜ。お前、やっぱり普通だよ。ちょっと変だけどな」
 
 
 それから、間もなくして、部屋に現れたヤツがいた。
「トカゲ君、無事にここに来れたんだねー」
「テメェは…!」
 グラビティは身構えた。赤と灰色の奇妙な服を着た、あの研究員だった。
「名前、教えてなかったっけ? あー、そんな時間無かったっけね~」
 あははと、気の抜けたように笑って、その研究員は、部屋の壁際に倒れている、ホリックとかいうヤツの所へ歩いて行った。
「僕ね、ジェノサイドって呼ばれてるんだ。君の逃走は、僕が黙っておいたん・・・あーーー!!!」
 こちらには振り向かず、倒れたホリックに何か作業しながら…叫んだ。
「酷~い! 故障しすぎてるじゃないか! ホリック~ッ!」
 今にも泣きそうな情けない声を上げて、ジェノサイドは慌て始めた。
「トカゲ君でしょ、こんなにしたの。もうちょっと手加減してあげてよ~。ホリックは自己修復できないし、戦闘装備もしていないんだからねー」
「そんなの知るかよ。…ところで、テメェ、何だって、そんな…。俺が逃げたのを黙ってた?」
 気を張り、じっとジェノサイドの後ろ姿を睨む。
「ここから…出たいんでしょ?」
「え…」
 返ってきたのは意外な言葉だった。
 ジェノサイドは、ホリックを台車に乗せ終わると、こちらに振り向いて、見えている口元に笑顔を浮かべた。
「僕にも立場ってものがあるから、直接な手伝いはできないけどねー」
 クスクスと笑って、首をかしげる。無邪気な仕草ではあったが、グラビティはこの研究員が何かを考えている事を感じた。
「【11-176-DB】…」
「なに~? 僕の事は番号で呼ばないで欲しいな~。ジェノサイドて呼んで」
 ジェノサイドは、エレクトロに呼ばれ、エレクトロの傍へぱたぱたと駆け寄った。
「ホリックは、データの不正コピーをしようとしていた」
「あはは、それは大変だったねー」
「マスターに命令された…と、言っていた」
「…ホリックのお喋り…」
 ボソリと小さな声を出し、ジェノサイドは動かないホリックの方をちらりと見遣った。
「処罰されるに値する行為だ」
「知ってるよ~。だから色々と、手回ししてたんじゃないか」
 エレクトロに言われ、尖らせながらジェノサイドが四角い鉄の塊を指差した。
「何ヶ月もかけて造ったのに…。やっぱり、君には勝てないね~。君を改造した人は、すごく優秀な人だったんだろうねー」
 へらへらと緊張感の全く無い態度でジェノサイドが笑う。
「僕とホリックの事は、ナイショにしててよ。映像データもデリートするんだ。トカゲ君とお話できたんだから、これくらい、許してくれてもいいでしょ~?」
「それは、命令なのか?」
「そうだよ」
「解った。ホリックが来なかったら、俺はグラビティに会えなかったかもしれない…」
「は~い、交渉成立!」
「おいおい…!」
 グラビティは、声を荒げた。ジェノサイドという研究員にではなく、エレクトロに。自分をダシに使われたのは気に入らないが、それ以上に…エレクトロの考えに驚いた。
「そんなに、あっさり命令を聞くのかよ! コイツは、ホリックとかいうヤツを使って悪い事しようとしたんだろ!?」
「はいはい、怒らないで~、トカゲ君」
 エレクトロに詰め寄るグラビティの両肩に、後ろから手を置いて、ジェノサイドが言ってきた。
「絶対命令以外の命令は、上手く言い聞かせれば命令変更できるのが、管理者君の良い所なんだからー」
「触るなよ、気持ち悪ぃ!」
 振り返りながら、ジェノサイドの両手を払い落とす。思ったよりもずっと身長の高い男で、一瞬面喰らうが、グラビティはジェノサイドを睨み上げた。
 この男は、信用できない。
 しかし、ジェノサイドはグラビティの睨みも気にしていない様子で、エレクトロに近寄りその紅い髪を軽く撫でた。
「良かったね、管理者君。友達ができて。きっとトカゲ君は、君を大事に思ってくれてると思うよ」
「友達? グラビティの事か?」
「そう、友達。友達っていうのはね、特別な存在なんだよ~。大事にしなきゃね。困っている時は助け合うものだよ。僕もね、少し前に友達ができたんだ。ちょっと凶暴で恐いけど」
「特別な存在…」
「そうだよ。時には、命令なんかよりも大事なんだから」
 ジェノサイドの言葉に、エレクトロは少し考え込んでいるようだった。
 そして、自分の腕の皮膚を一摘みして引き抜く。血は出ずに、肌の痕はすぐ治った。
「?」
 奇妙な行動に、グラビティが目を凝らしていると、エレクトロはグラビティを見て「来てくれ」と言った。
 言われるままに近寄ってみると、エレクトロは自分の肌のカケラを手の平に乗せて差し出してきた。
「ここには材料が無いから新たに造る事は出来ないが、俺のナノマシンでも十分機能するはずだ」
「え…何だよ、これ…?」
 わずか1センチメートルも無い、小さなエレクトロの肌のカケラを指先でつついてみる。体温は無く、硬い鉄のようだった。
「それを耳の穴の凹みに入れておいてくれ」
「こう…か?」
 小さな物質を耳の凹みに入れてみる。
“聞こえるか?”
「!」
 エレクトロは喋ってもいないのに、耳の凹みに入れた物質から、声が聞こえた。何だか、ちょっとくすぐったい感じがする。
“通信機だ。何か、困った事があったら、言ってくれ。だが、グラビティが言う、この施設から出たいという要望には応えられないが…”
「ありがとよ。十分だ」
 グラビティはニィっと笑った。自分も、エレクトロとはいつでも話をしていたいと思っていた。
「お話は、済んだ?」
 ひょこりと顔を出してくるジェノサイド。
「じゃあ、トカゲ君、7区に帰らないとね。そろそろ戻らないと、僕が作った言い訳も効かなくなるから」
「テメェ、何だって、そんなにオレを気にしてんだよ」
「君だけじゃないよ~。管理者君も、6区の【アーミー】たちも、7区の神様もクリーチャーたちも、11区の少女や、12区の黒い悪魔と戦士も。僕の友達であるギガ君もね。…皆だよ、み~んな」
 まるで、自分に言い聞かせるように、ジェノサイドは言った。
「何を、考えてやがる?」
「ここから出たがっているのは、君だけじゃ無い」
「……」
 グラビティは目を見開いた。黄色いゴーグルで、どんな目をしてこちらを見ているのかは分からないけど、この男は、もしかしたら…本当に、本気でここから出ようと考えているのかもしれない。そして、その方法を、少しながら知っているのかもしれない。
「まだ、時期じゃないんだ。まだ…出られない。…でも、必ず、出られる時が来るから」
 ジェノサイドは独り言のように小さく呟くと、ホリックを乗せた台車を押して、出入り口の近くへ行く。
「トカゲ君、無事に7区に帰してあげるよ~」
 そう言って、指を指したのは、台車の上のホリック。
「ここに乗って、寝たフリをしててね」
「なっ、おい! ちょっと待て!」
 グラビティは顔を引き攣らせる。得体の知れないヤツの上に寝ろというのか。
「だから、僕が実験のために、君を借りてたって事にしてあげるから」
「そうじゃねぇ! そんな、変なヤツに触りたくねぇんだよ!」
「失礼だねー。ホリックは変な奴じゃないってば~!」
「十分、変だろ! ソイツ、生きてるのか死んでるのかも、分からねぇんだぞ! 腕、おかしい方向に曲がってるし、首が真後ろ向いてるし!」
「もー、文句言わないでよ~! 壊したのは君なんだからね。それとも、警報を鳴らして、警備兵に麻酔銃撃ってもらいたいの?」
「やだよ!」
「台車、1台しか持って来て無いし、一度ホリックを運んでから、また来るのも面倒なんだからね~。今日はあちこちの地区に移動してたから、僕、疲れちゃったよ」
「うー」
 グラビティは、犬のうなり声に似た声を出す。
「あは」
 間の抜けた笑い声を出して、ジェノサイドは首を傾げた。
「物凄く不満みたいだねー。でも、ちょっとの間だから、我慢してよ」
「くそ…」
 グラビティは、恐る恐る台車の上のホリックに触ると、べしべしと叩いて確認してみた。まったく動く気配は無い。まるで、物みたいに、冷たかった。死んでいるのだろうかとも思えたが、死の匂いはしていなかった。
「エレクトロ、じゃあな」
 エレクトロの方を向いて、短く言うと、エレクトロは頷いた。
 グラビティは、しぶしぶながら、ホリックの上に乗り、寝そべる。
「これでいいのかよ?」
「うん」
 ジェノサイドはニッコリと笑った。
「管理者君、じゃあね~! あ、映像データの削除、ヨロシクね!」
 そう言って、ジェノサイドはグラビティとホリックの乗った台車を押し、エレクトロの部屋を出た。
 台車の上のホリックの上で、グラビティは妙に硬い感触に嫌な気分になりながら、じっと目を閉じていた。
 
 
 
 
 
つづく


弐寺絵まとめ9

過去のトップ絵まとめ。
 
 
2006/07/12~2006/09/08
30代目。サンバde嘆きの樹。
すごい事に、サンバ衣装の追加はしてません。全部コイツの自前装備です。冒険しすぎ。
デコの模様と、兜が間違ってる事に、後日になって気付きましたが、直す気も無く…。


2006/02/05~2006/02/19
28代目。バレンタインっぽく、アクティ。
メェ~ちゃんな、ヒツジちゃん。
女の子は、描くの難しいですね!


2006/01/31~2006/02/05
27代目。『KAMIKAZE』と『雪月花』。
節分…と言うコトで、鬼さんたちを。構図は弐寺10thポスターを参考に。
『KAMIKAZE』の風神雷神を、ブサ可愛く描くのに必死だったという。
見所は、雷神の生足と、風神の肩甲骨ですかね(笑)


TOOL 8

「だーから! 2区ってのは、どこだっつの!」
 子供の大声がする。
 丸いシェルターがある、あの部屋。そっと覗き込んで見ると、自分と大差ない年齢の、赤い帽子を被った少年が、研究員の胸ぐらを掴んでいた。背が足りないので、持ち上げるまでには至っていないが。
「2区は立ち入り禁止だ!」
「知るかっての! 教えねーと、ぶん殴…」
 と、言いかけて、少年はピタリと言葉を止める。
 アーミィは、少年に偽造都市で拾った銃を向けていた。気配を読まれない様に部屋に忍び込んだはずなのに、どうして少年に感付かれたのだろうか。
 ハッとして、アーミィは横に飛び退いた。自分がさっきまで立っていた位置のすぐ後ろに、一抱えはある大きな緑色の目玉型のメカが浮いている。その目が、こちらを追っていた。
「あー?」
 赤い帽子の少年が、突き飛ばすように研究員から手を放して、こちらを向く。確証は無いが、この少年と目玉型のメカは、情報交換をしている。そうでなければ、気付かれるはずは無い。
「アーミィ、そいつを追い出せ」
 研究員が言い、部屋の隅に下がる。
 アーミィは無言で頷いて、身構えた。
「アーミィ…、お前、アーミィね。オレ、ギガデリックってんだけどー。…何? オレと喧嘩すんの?」
 ギガデリックと名を明かした少年は、へへっと笑った。目玉型メカが音も無く空中を移動し、少年のすぐそばに寄り添う。
「出て行って」
 アーミィは、短く言い放った。
「2区の場所、教えろよ。そしたら出てってやるっつの」
「それは言えない」
「何だよ、いーじゃん、教えてくれたってさ」
 ギガデリックが、顔を顰めて口を尖らせた。
「どーせ、お前もさ、訓練ばっかやってて、知りたいコトなんか、教えてもらってねーんだろ?」
「……」
 アーミィは、少しだけ目を細めた。このギガデリックという少年は、特に深い意味も無く皮肉を言ったのだろうけれど、心当たりのある発言だった。
「研究員ぶん殴ったら、後で怒られるからメンドくせーし…。お前なら喧嘩してもよさそーじゃん?」
 キィンと、場の空間が張り詰めた。空気が鋭利な刃物になったかのような感覚がする。
 ギガデリックの深緑色と灰色のオッドアイが、両目とも真紅色に変わる瞬間を見た。
 目玉型メカが、確かに1つであったはずなのに、まるで重なっていたかのように、その後ろから全く同じ大きさの目玉型メカが2体現れた。
 常識では考えられない現象が同時に起こり、アーミィは気を張った。
 増えたのは、桃色と、橙色。3体になった目玉型メカは、ギガデリックを中心に、三角形の頂点の位置するように移動して止まった。
 戦闘体勢万全というわけだろう。
 アーミィは、ぐっと身を屈めて身構えると、銃口を向ける。狙いは、右前椀。ギガデリックの動きから、利き腕は右だと知れた。目玉のメカがどんな行動をするにせよ、操っている者の戦意を止めれば良いはず。利き腕を奪えば、動揺するだろう。
「アーミィ、殺すな。多少、負傷させて構わん」
 部屋の隅でじっとしている研究員が言った。その言葉に、ギガデリックが首から下げているネームプレートに目が行く。11区の重要実験体である事が暗号で明記してあった。
 第11地区。稀に研究員たちが話している事があったが、内容までは記憶していなかった。興味の無い事だったし、自分には関係なかった。
 しかし実際、11区の実験体…つまりは11区の【アーミー】のような存在だろうか…それと対峙する事になろうとは。今まで戦ってきた、6区の【アーミー】たちのようにはいかないだろう。
「外野、ウルセ。ったく、テメェがさっさと2区の場所言やいーっつの! バカちんが!」
 その、ギガデリックが研究員に顔を向けた瞬間、アーミィは銃のトリガーを引いた。
 銃声とほぼ同時に、ギギッっと鉄を擦り合わせるような不快な音が部屋に響いた。
「っ!」
 アーミィは、ドキっとして、一歩下がった。
 弾丸が、空中で止まっている。
 僅かに、赤く光る半透明の細い線の円が空間に発生していて、その中心で弾丸が壁にでも当ったかのように、潰れて止まっている。
 良く見ると、桃色の目玉メカが目を大きく見開いていた。
「不意打ちってヤツ? オレに効くワケねーじゃん」
 ギガデリックが、べぇっと舌を出した。その次の瞬間、顔を少しだけ伏せ、笑顔でギロっと睨んだ。
 その攻撃的な笑顔が合図だったのか、橙色の目玉メカが、ヒュっと襲い掛かってくる。
 大きな瞼を閉じ、再び開けた時には瞳は無く、代わりに鉄の刃がびっしりと生えていた。それはもう目玉と呼ぶよりは、口と呼んだ方がいいかもしれない。大きく開いて、噛み付こうとしてきた。
 アーミィは身軽に右に跳んで避け、ギガデリックの方を見据えると、今度は緑色の目玉メカがその場から動かずに目を大きく開けた。
 ビュンと無機質な音が響いて、細い光の筋が飛んでくるのを素早く屈んで避ける。
 そうか…と、アーミィは思った。
 桃色が防御、橙色が接近攻撃、緑色が遠距離攻撃という役割らしい。
 間髪入れずに、再び橙色の目玉が噛み付こうと大口を開けて向かってくる。壁際に寄って避けると、その目玉は勢い余って鋼鉄の壁にかじり付いた。それで少しは怯むであろうと思っての計算だったが、見事に壁を喰い千切り鋼鉄の壁に歯形を残して、直ぐさまこちらを向いた。
 そうこうしていると、緑色の目玉からレーザーが飛んで来る。
 滅茶苦茶だ。アーミィは苦い顔をした。常識外れな存在じゃないか。11区の【アーミー】は、全員に特殊な能力があって、こういう戦い方をするのだろうか。…いや、重要実験体と明記があった事を考えると、数少ないサンプルなのだろう。可能性的に、このギガデリックという少年だけなのかもしれない。
 当のギガデリックは、高みの見物でもするかのように腕を組みながら、僅かに緊張を含んだ笑顔でじっと戦闘を見ていた。その表情は殺意のあるものではなく、どちらかと言えば、興味と期待に満ちた興奮の笑顔だった。
「くっ…!」
 左足に熱と痛みと痺れ。避け切れなかったレーザーが足に当った。しかし、足に穴が開く事は無く、中程度の火傷で済まされた。避けて外れたレーザーは、鋼鉄の壁を少し溶かしてしまうほどの威力であったはずなのに。
 まさか。命中する事を知っていて、威力を弱めたとでもいうのか。
 その態度がどこか腹立だしくて、アーミィはギガデリックに弾丸を放った。…が、それは同じく桃色の目玉のシールドに阻止されて、虚しく弾丸を床に転がした。
 火傷の痛みは特に問題は無いが、痺れてしまったのは辛い。動きが鈍い。
-右に避けて-
「!?」
 突然、どこからか声が響いた。反射的に言われた通りに右に避けると、その場の床に橙色の目玉が噛み付き、その左側をレーザーが通って行った。
 声の主を探そうとあまり広くは無い部屋を見回すが、それらしき人物はいない。声の感じから、自分と同じくらいの子供の…自分に良く似た声だった。
 その後も、主の見当たらない声は、避けるべき的確な方向を教えてくれた。謎の声に助けられて、アーミィは足の痺れも負担にならずに攻撃を躱せていた。
-銃を 右上の天井へ撃って-
 今度は、避ける方向では無く、攻撃の方向。しかし、その方向は、ターゲットであるギガデリックどころか、何も無い所だった。
 だが、アーミィはすぐにその言葉の意味に気付き、言われた方向へ、トリガーを引いた。
 桃色の目玉が目を大きく開けた。
 …が。
「うわぁッ…! いってぇ! 痛ぇーッ!!」
 ギガデリックは口いっぱいに大きく叫んで、その場にしゃがんで腕を押さえる。
 弾丸は、シールドの奥に居るギガデリックに当った。天井を反射して。
 一度、反射して威力の弱まった弾丸は、右前椀を貫通する事無く、腕の中に弾丸が残る状態となった。押さえている指の隙間から、じわじわと血が流れ始める。
 アーミィは、それを見て、どこか安堵した。この不可思議な能力を持つ少年が、自分と同じ血の色だったからかもしれない。
 目玉メカたちは、主人の負傷と同時に、空中で動きが停止していた。
「ぅぐ…、くそ…、熱いし、超痛ぇ…! すっげムカツク!」
 目に涙を浮かべて、ギガデリックが睨み上げる。
 その目線の先は、こちらの顔では無く、手にしていた銃を見ている。
 持っていた銃がビクリと動いた気がした。カンと乾いた音がして、銃が軽くなる。弾倉が外れて、床に落ちている。その後には、銃がバラバラに分解されて手から落ちていった。
 信じられない光景に、アーミィは、身体が固まった。普通では考えられないが、ギガデリックが手も触れずに銃を分解したとしか思えない。
 こんな能力まで持っているとなると、人体にも影響する能力も持っている可能性も考えられる。
 痛みに慣れていない事から、戦闘訓練は受けていないのだろうか。ダメージを受けた事が極端に少ないのかもしれない。
 ギガデリックが、ふーっと長く息を吐くと、目玉メカたちが浮いている高度を徐々に下げて、ギガデリックの頭の高さで止まる。3体が同時に、こちらを向いた。
 緑色の目玉メカの後ろから、また重なっていたかのように、今度は薄紫色の目玉メカが現れた。それはこちらに向く事無く、ギガデリックの負傷した腕の前で止まると、丸い体からコードのようなものを数本伸ばす。弾丸の埋まった箇所にコードの先を集めて、弾丸を取り除こうとしていた。
「まだ、喧嘩、続けてや…」
 と、言いかけて、ギガデリックは思いっきり息を吸い込んだ。
「~~~っだああああーッ!! イデデデっ! 麻酔、効いてねーっつの! ヤダヤダ、やめろ!!」
 薄紫色の目玉メカをバンバンと叩く。
 目玉メカたちは慌て始め、キョロキョロと辺りを見回したり、ウロウロと不規則に動きだした。
 緑色の目玉メカが、ギガデリックの顔を覗くように、そっと近付く。
「え? 来んの? 今?」
 何か、会話でもしているのだろうか、ギガデリックは驚いた表情を浮かべて、開きっぱなしになっていた部屋の出入り口の方へ目を向けた。
 数秒後、出入り口にフラリと、身長の細長い銀髪の青年が現れた。赤と黒の奇妙な服を着て、黄色いゴーグルをかけている。
「ギ、ガ、く、んー!!」
 その青年は、息を切らしながら、堪えるような低い声を出す。
「ジェノ兄…」
 ギガデリックは、きまりが悪い顔をして、肩を竦めた。
「もー! ギガ君が6区で迷惑かけてるって連絡もらって、ここまで、走って来……ああー! ギガ君、怪我してるの~!? 痛い? 痛いよね? すぐ治してあげるから!」
「んー。麻酔、さっきよか効いてきたみてーだから…あんまし痛くねーや。平気じゃね?」
「平気なワケないでしょー! 血が出てるんだから! 痛く無いからって、放っておくと、大変だよ~!」
 どうやら、銀髪の青年は、ギガデリックという実験体の担当者らしい。…その割りには、随分と対等に会話をしているようだけれど。
 張り詰めていた空気が元に戻り、4体に増えていた目玉メカは、いつの間にか緑色の1体のみになっていた。
 銀髪の青年は、ギガデリックの腕に応急処置をしながら、研究員に頭を下げている。
 研究員は、文句を言っているようだったが、ギガデリックはつんと顔を背向けていた。
「ほら、ギガ君、『ごめんなさい』は?」
「はぁ? 何で謝んなきゃなんねーんだよ。喧嘩していいみてーなコト、言ってたんだぜ?」
「どうせ、その原因を作ったのはギガ君でしょ。はい、謝る!」
「何だよ…。……悪かったな…」
 小さな声でぼそぼそと謝るギガデリック。それを見て、銀髪の青年は満足したようだったが、研究員の顔は渋いままだった。
「アーミィ…だっけ?」
 くるりとこちらを振り返って、ギガデリックが声をかけてきた。
「お前、頭いいじゃん。オレに銃の弾当てたの、お前が初めてだぜ。痛ぇのはムカツクけどさ、お前はムカツカねーな」
 そう言って、ギガデリックはニィっと笑った。
 全く警戒心の無い、殺意も無い笑顔。アーミィにとっては、初めて見る類いの笑顔だった。
 その笑顔への対応が解らず、アーミィはゆっくりと頷くのが精一杯だった。
「ごめんね~、軍人君。ギガ君を相手に、大きな怪我しなかっただなんて、すごいね~。ギガ君と歳の近い子が少ないからさ、今度またギガ君と遊んであげてね。あ、今度は喧嘩じゃダメだよ~。普通に仲良く遊んでね!」
 銀髪の青年も同じく、何の殺気も冷たさも無い。
 他の人と明らかに違う二人。でも、決して悪い感じはしない。
 何だろう、この感じは。
 銀髪の青年は、ギガデリックの手を引いて部屋を出て行った。
「なーんかさ、アーミィとジェノ兄って、似てんのな」
「え~? どこが~?」
「んー、何か、雰囲気っつーか、感じっつーか…。…よく分かんね」
「僕の小さい頃っぽい? 髪が同じ色だから」
「ジェノ兄、アーミィみてーに早く動けねーじゃん。やっぱ、全然似てねーな」
「あはは~」
 と、そんな会話が段々と小さくなっていくのが聞こえていた。
「まったく…。あんな乱暴な実験体に、何故、レベル3もの行動許可範囲を与えているんだか。さっさと洗脳してしまえば良いのに。噂には聞いていたが、ジェノサイド博士は、相当な変わり者だな」
 二人が去った後、研究員は溜め息混じりに独り言を言って、デスクの上の書類をまとめた。
「アーミィ。私は4区に行く。代わりの者が来るまで、この部屋に誰も入れるな」
 そう言い残されて、アーミィは、独りになった。
 レーザーの焦げや歯形の痕が所々にある部屋の中で、ふと気が付くと、その痕が徐々に小さくなっているように見えた。
 壁に近付いて、その大きな歯形の痕にじっと見入っていると、やはり見間違いではなく、大きな痕は小さくなっていく。もしかしたら、あの偽造都市の崩壊したビルも、こうして直っているのかもしれない。
-エレクトロが 直してくれている-
「え…」
-この施設は エレクトロの一部だから 彼のナノマシンが直してくれる-
 また、あの声。しかし、周りを見回しても…。
 と、そこで気付いた。もうひとり、この部屋に居る。
 アーミィは、丸いシェルターのある場所から、少し離れた位置の壁に背を付けるように座り込んだ。シェルターの中の少年に目線を向ける。中の少年は、眠っているように、ずっと目を閉じたままだった。
「…ねぇ」
 いつもよりも大きな声で、その目を閉じたままの少年に声をかけてみた。ぶ厚いガラス越しに、自分の声が届いているのかどうかなんて、解らないけれど。
「さっきの声、君でしょ? どうして、助けてくれたの?」
-アーミィは 僕と同じだから-
 頭の中に響く声。
 間違い無い。このシェルターの中の少年が、直接、頭の中に話し掛けている。
「同じ…」
 やはり、新しい【アーミー】なのだろうか。
「君は、誰?」
-僕はミニマ 最初の【アーミー】-
「最初の…【アーミー】…?」
 ミニマという少年の言葉に、アーミィは息が停まりそうになった。
 
 
 
 
 
つづく


神羅万象チョコ絵まとめ

別館が閉鎖になったため、展示していた絵を移動。
 
 
2006/02/28
 
 
2006/02/27
 
 
2006/02/28
 
 
2006/03/10
しれっと腐絵投下。


TOOL 7

「っ…」
 鋼鉄の椅子の上で、エレクトロはびくっと身体を揺らした。
 施設中全てに張り巡らされているネットワークのどこからか、異常なエネルギーが逆流してきた。
 エネルギーの逆流が起きる事は稀にある。エネルギーは、自分の動力源として使えるのだが、このエネルギーの量は多過ぎる。危険だ。
 エレクトロは、その場所が7区である事を感知し、一時的なネットワークの切断をした。各地区には、それぞれメインコンピュータがある。少しの間、7区はメインコンピュータだけで動いてもらうしかない。
 他の地区のネットワークを通じて、7区のエネルギー逆流の原因を調査する。どうやら、実験体の暴走らしい。データにあった記録よりも遥かに数値が異常上昇して、それが設置せてある装置の限界値を遥かに上回り、エネルギー体として流れてきたようだった。1時間もすればエネルギー体は分散して、メインコンピュータたちの動力源になる。特に問題は無い。
 気になる事が、ひとつ。
 この部屋へ向かって来ている者がいる。【11-176-DB】が作成した、【145-HT】。
 研究員以外の者がここに来るのは、これで二人目になった。
 しかし、【145-HT】がここに来る事は、予測の範囲外。今までの行動パターンから検証しても、有り得ない。
 ドアの前まで来て「入れてくれ」と言っている。
 入れてくれと、言っているのだから、入れるべきなのだろう。
 エレクトロは鋼鉄の椅子に座ったまま、ドアロックの機械を遠隔操作して、ドアを開けた。
「はじめまして」
 何の迷いも無く堂々と入って来た【145-HT】は、首周りに付けた派手な羽飾りを揺らすように、深く一礼した。
「はじめましてと言っても、キミはボクの事は知っているだろうけれどね」
【145-HT】は、自分よりも先に造られてはいるが、知っている。いつ造られたか、何をしているのかも把握している。全てデータにあるし、監視カメラで見ている。ただ、ひとつ解らないのは。
「【145-HT】は、何を目的として来…」
「ストップ」
【145-HT】は、手の平を向けて言葉を遮った。エレクトロは素直に言葉を止める。
「こうして、直接会うのは初めてだね。ボクをナンバーで呼ぶのはやめてくれないか?番号で呼ばれるのは好きでは無いのでね。ホリックと呼んでくれ」
「ホリック…。以後、【145-HT】をホリックと呼ぶ」
「いい子だね」
 ホリックは口の端を上げて笑った。
「ホリック、データ内の名称もホリックに変更するのか?」
「いいや、それは変更しなくて良い。研究員が後で煩く言いそうだからね。マスターに迷惑がかかる。…ふふ、仕事熱心なのだね、エレクトロは」
 研究員以外の者がここに来ると、エレクトロと呼ぶのは、どうしてなのだろうか。…余計な事に、メモリは使えない。考えては駄目だ。
 ホリックはつかつかと近付き、すぐ側で止まった。
「キミに…正確には、キミの管理するデータに用事があって、来たのだよ。命令なのでね」
 ホリックが、ゴトリと床に何かを置いた。一抱えくらいはある、四角い機械だった。その機械には、全く見覚えが無い。データにも記録されていない機械だった。
 エレクトロは、ホリックを見上げた。
 ホリックは、エレクトロのすぐ後ろにある巨大なコンピュータのひとつに、その四角い機械に接続されているケーブルの数本を繋ぎ始める。
「止めないのかい?」
 途中で手を止めて、ホリックがこちらに顔を向ける。
「命令は、受けていない」
 メンテナンスの時にしか触られていない巨大なコンピュータだが、メンテナンス以外の時には誰にも触らせるなという命令は受けていない。だから、エレクトロは黙ってホリックの行動を見ていた。
「本当に、受けた命令にしか従わないのだね。好都合だよ」
 残りのケーブルを全て繋ぎ終えると、ホリックは、もう一度、今度は少し身体を屈めて、同じ高さの目線で、こちらを見た。サイバーゴーグルを付けているので、目が合っているかは解らないが。
「この、大きなコンピュータたちは、キミのサポートをしている…言わば、キミ専用の周辺機。…合ってるかい?」
「合っている」
「監視カメラの音声と映像の保存、セキュリティ等を任せている。…そうかい?」
「そうだ」
「キミは、ここのコンピュータたちとリンクして、全ての作業を行っている。…間違い無いかね?」
「間違い無い」
「そして、『TOOL』のデータは全て、キミ自身の中にある。…正解だね?」
「正解だ」
 エレクトロは、ホリックの質問に淡々と答えた。その度に、ホリックが笑みを濃くする。
「エレクトロ、侵入者には、そう易々と答えるものでは無いよ」
「ホリックが侵入者の可能性は、限り無く0%だ。研究員のサポートマシンだと、データにはある」
「…そこが、マスターの狙いさ」
 ホリックは、四角い機械を起動させ、屈めていた身体を戻した。
「これの難点は、長時間使用不可な所、かな」
 
“他機カラノ応答ガ切断サレマシタ”
 
「!」
 エレクトロは、無表情ながらも、少しだけ目を見開いた。コンピュータとの接続が切れた。
「まず、監視カメラの映像が見えなくなり、音声が聞こえなくなる。セキュリティが無効化する。そして、ナノマシンの活動が沈静化する。キミがいなければ、ここのコンピュータは全て只の鉄クズだね」
「ホリック…」
「安心したまえ。キミの一番大事な仕事である『TOOL』データの演算処理だけは、今これが代行してくれている」
「……」
 エレクトロは、何か言いたそうに口を開けたが、何を言うべきなのか解らず、声には出来なかった。
「まぁ、こんなケースは初めてだろうから、混乱するのも、無理ないか」
 くくっ…と、人間の様に喉の奥で笑って、ホリックはエレクトロのすぐ正面まで歩き、向き合った。
 このままでは、いけない。いくら演算を代行されているからといっても、セキュリティを無効化されたままでは危険だ。ナノマシンの活動が止められたままでは、施設の破損の修復も出来ない。
 エレクトロは立ち上がろうとしたが、その両肩をホリックの両手で押さえ込まれた。
「まぁ、ゆっくり座っていたまえ」
「切断をやめてくれ」
「今は出来無いな。こちらも命令なのだよ。この機械には演算の量が多過ぎる。長くは持た無い。だから、早急に済ませるさ」
 ホリックは、エレクトロの後頭部に繋がっているコードを一本引き抜いた。
「いけない」
 エレクトロは無感情な声を無表情のまま出して、ホリックが抜いたコードを取り返そうと手を伸ばした。
「悪いね、エレクトロ。少しだけ、データをもらうよ」
 ホリックは抜いたコードの代わりに、自分のコードを差し込んだ。
 エレクトロは、一瞬だけ目を細めた。ホリックのプログラムに浸入される。
 
“プロテクト強化。ウォール展開。一切ノ浸入ヲ遮断”
 
「さすがに速いね…。だが、ボクも引き下がる訳にはいかないのだよ」
 プロテクト解除のパスワードを探られている。同時にウォールの構築を崩す数列をぶつけてくる。
 エレクトロは、ホリックのコードを抜こうとしたが、その腕を掴まれた。
「すぐに終わるよ。キミが温和しくしてくれれば、ね」
「駄目だ。各地区の最高責任者の許可無しに、直接…コピーは出来ない」
「キミが黙っていれば、誰にも解りはしない。だから、許可も必要無い」
 
“左腕ニ痛覚ヲ感知”
 
「…っ! 腕が破損する。手を離してくれ」
「痛いのか?」
 ホリックは、意外だなと小声で付け足した。腕を掴んでいる力を弱める。
「痛覚は、始めだけだ。痛覚神経から信号が流れたら、痛覚回路は遮断する」
「痛みは生物にとって、生きる為の大切な事なのだよ。良かったじゃないか、僅かでも残っていて」
「それは、知っている。だけど、ホリックの言う事は、理解不能だ。その言葉は、俺が生物であることを前提として言うべきだ」
「己の事は、何ひとつ知らないのだね」
「痛覚があるのは、俺が未完成だからだ。研究員は、そう言っている」
「いいや。キミは十分、完成しているさ」
「…ホリック、警告だ。不正行動を停止しないのなら、排除対象とする」
 エレクトロは、右腕を重火器に変形させて、ホリックへ向けた。
 侵入者ではないが、この行為は侵入者と同じ事。それならば、排除するしかない。
「温和しくして欲しいのだがね」
 ホリックは、溜め息を付いた。
「30秒以内に、不正行為を停止しなければ、侵入者と見做し、排除する」
「やれやれ。ナノマシンは苦手なのだが…。仕方無い」
 ホリックは自分の左手の先を銃口に入れた。
「少し…いいや、大分、苦しいかもしれ無いが…。ボクにも、それなりの負担が掛かるからね。お互い様だ」
 ホリックがそう言ったと同時に、身体の機能が著しく低下した。どうやら、ホリックが直接ナノマシンと接触して、機能を停止させようとしているらしい。
 
“循環機能大幅低下。及ビ、呼吸機能低下。継続ニヨル、本体ノ致命的大破ノ恐レ有リ”
 
「うっ…」
 エレクトロは、顔を顰めて短く呻いた。呼吸が止まるのを、何とか抑えたが、この状態が続くのは危険だ。
 ホリックから銃口を外そうとしたが、ホリックは、左手をしっかりと接続しているのか、全く動かせない。
「くっ…、マスター…の、嘘つき…!」
 突然、ホリックがノイズ混じりの声を出した。
「こんなに負担が掛かる…だなんて…。これでは…コピーどころか…検索すら…」
「テメェ! 何してんだーッ!!」
 ドガン!!
 物凄い衝撃音と共に、ホリックの姿が一瞬にして消えた。
 いや、消えたのではない。この位置から3メートルほど離れた左側の壁に張り付いていた。当然、繋がっていたコードも千切れているし、手も銃口から抜けている。
 ホリックがいたはずの場所の、少し右の位置で片足を上げている、見覚えのある姿があった。
「グラビティ…」
 その姿を見て、電子頭脳の中を検索する前に、その名前が音声になった。
「大丈夫か?」
 グラビティが、薄く短い眉毛を寄せる。この表情は、心配というものだろう。
「データは、コピーされていない」
「そうじゃねぇよ、オマエだ、オマエ。データとかコピーってのは、どうでもいい」
「俺の身体に、破損は無い…が…」
 自分に破損は無いが、ホリックが持って来た装置を止めなければ。
 エレクトロは鋼鉄の椅子から立ち上がると、身体に繋がっているコードやケーブルを引き摺りながら歩き、装置の前に座った。電源を落として、巨大なコンピュータに繋がっているコードを抜く。
 施設内の全ての情報が流れ込んでくる。
 第7地区で、実験体が逃げ出したと通報されていた。警報を鳴らさなければいけなかったようだ。
 しかし、時間が経過し過ぎている。その後の報告は特に無い。実験体は回収されたのだろうか。
「その四角い鉄、前に来た時は無かったな」
 グラビティが、すぐ隣で顔を覗かせた。ホリックが持って来た装置を、目を細くして見ている。
「この装置は、ホリックが持って来た」
 当のホリックの方へ目線を移動すると、ホリックは壁からずり落ちて倒れたまま停止している。ここからでは正確に確認できないが、故障した可能性が高い。【11-176-DB】に連絡して、回収してもらうしかない。
「ホリック? ああ、アイツか。思いっきり蹴り飛ばしちまったな」
 グラビティはホリックの方を見て、後頭部を掻いた。
「だってよ、この部屋に入ったら、お前とアイツが取っ組み合いしてるじゃねぇか。お前、苦しそうな顔してたからよ。悪いヤツだと思って蹴っちまったぜ」
「グラビティのお陰で、助かった」
「そか。良かったな」
 グラビティは、異常に発達した犬歯が良く見えるくらいの笑顔をした。
 この表情。
 今まで、どの研究員も見せた事のない、顔。
 それを見て、エレクトロは、微かではあるが、自然と笑顔になった。
 
 
 
 
 
つづく


3人合作弐寺絵

寿々(黄色)、天火神猫(水色)、うずしお(桃色)の3人よる合作。思い出の作品。
うずしおは、生まれて初めてコピックを使ったのです。


寿々、天火神猫、うずしおの3人よる合作。はしゃぎながら描いた作品。
誰がどこを描いたのか分からないが、何故かまとまった絵として成立している・・・気がする。


色々絵まとめ1

ジャンル色々。下に行くほど古い。
正確な更新日がいつだったのかも分からない古い絵が殆ど。
 
 
2005/12/25
ポケットモンスターのルカリオ。
某御方の影響で、ちょっと描いてみた。リカリオの事は良く知らない(ダメすぎ)
ポケモンは触れたことが無いジャンル。でも、ルカリオを初めて見た時「アヌビス神みたいでカッコイイな」と思った。


2005/10/30
チ■ルチョコのきなこもちを擬人化。とても美味しいチョコだよね。


2004/05/03
お絵描き掲示板で描いたエイリアン。


2004/04/16
映画『陰陽師2』の幻角様。生まれて初めての絵板。映画観賞中は幻角様の帽子が気になって仕方なかった(笑)


KOFのK9999。どう見ても『AKIRA』の鉄雄。


ギタルマンのY-1とプーマ。
ストーリー重視で面白い音ゲーです。


R-TYPE FINALの愛のフォース。
インテリアにこんなルームライトが欲しいです。


以下は、過去に使っていた背景画像。