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TOOL 6

「は~ぁ…」
 溜め息が出る。
 不満を十分に含んだその溜め息は、周りの鳴き声やら叫び声に、あっさりと掻き消された。
 狭いケージの鉄格子の外に目を向けて、グラビティはまた溜め息をした。
 逃げ出しても、すぐに捕まる。この繰り返し。
 このままじゃ、だめだ。
 そうは思っていても、解決になる糸口は無く、余計に苛立つ。
 目を閉じ、あれこれと考えてみる。が、だんだんと思考が鈍り始める。
 うつらうつらと心地よくなってきた頃、何やらいつも以上に騒がしい雰囲気になりだした。
 目を開けると、広い部屋の一角に研究員が集まり、今まで見たこともない装置を組み立てていた。
 偶然にも、その装置全体を見ることができる位置のケージに、グラビティはいた。距離はわずか10メートルくらいで、見下ろすような状態。研究員の会話もよく聞こえる。
 格子の間から、じっと様子を伺う。
 仰々しい鉄の塊たちに囲まれ、最後に組み上がったのは、人ひとり入れるくらい大きなガラスの筒。
 間もなくして、そのガラスの筒は薄緑色の透明な水で満たされた。
 それから、研究員たちは、少し何かを話してから、立ち去って行った。声は聞こえていたものの、グラビティには皆目解らない内容の会話だった。
 研究員が立ち去った後、グラビティはいつもの様に鉄格子を潰して、ケージの外ヘと飛び降りた。
 廊下にさえ出なければ、警報は鳴らないはず。
 研究員たちが組み立てた新しい装置に、ゆっくりと近づく。ガラスの筒の周りを見回すと、太さの違うコードで沢山繋がり合い、耳に気にならない程度の機械音を立てていた。
 ガラスの筒の中で、時々小さな泡がぽこりぽこりと昇っていく。その溶液の中に、指先くらいの大きさの塊が漂っていた。
 グラビティは、ガラスにへばり付く様に顔を付けて、その小さな物体に目を凝らした。
 薄い紅色をしたその塊。僅かに透けた身体をしたそれは、小さな脈動をしていた。
「生きてんのか…?」
 グラビティは、ぽつりと呟いた。
 こんな小さな生き物は初めて見た。この部屋のケージに閉じ込められている生き物たちは皆、人並みの大きさをしているものだから。
 胎児という存在を、グラビティは知らなかった。
「なぁ、お前。オレの声が聞こえるかよ?」
 こつこつと爪先でガラスの壁を突いてみる。
 しかし、小さな生命は、何事も無いかのように、静かに漂っているままだった。
 無反応の態度に少しばかり腹が立ったが、大きく伸びをして気分を入れ直す。きっと、コイツは、寝ているんだ。だから、声が聞こえていないんだろう。
 グラビティは、ふらふらと部屋の中を探り始めた。
 ここから出るという事に集中していたため、この部屋の中を見て回った事が無かった。もしかしたら、ここから抜け出す手口になるものがあるかもしれない。出入り口がひとつとは限らないのだから。
 いつもなら、すぐに向かう出入口とは反対の方へ進む。
 高く積み上がったケージの中の生き物たちの視線が、自分に注がれているのを邪魔ったく感じて、グラビティは足を早めた。逃げる気も無いクセに、逃げ出そうとする者には不平をぶつける。そんな連中に構ってる時間なんて無い。
 こうして、この部屋の生き物たちを見ていると、ふと思うことがある。
 何で自分は、人間に似ている姿をしているんだろうか、と。
 このことを考えると、息苦しいような、変な気分になる。
 何でそんな気分になるのかも、分からない。
 もやもやとした感じが嫌になるから、いつも考えるのをやめてしまう。
「っ…!」
 ケージが積み上がってできた壁を曲がろうとして、グラビティは慌てて身体を退いた。
 曲がった先に、人間の姿が見えた。幸いなことに背中向きだったので、気付かれなくてすんだ。
 そっと顔だけを覗かせて見る。嫌でも見慣れた白衣の人間と、赤と黒灰の風変わりな服を着た銀髪の人間が、小さな声ではあるものの、激しい論争をしながら歩いて行く所だった。
「この実験は、やめるべきだよ」
「安定化させるまで、あと少しなんです」
「だから…、取り返しのつかない事になる前に、実験を中止するべきだってばー」
「何を、恐れていらっしゃるのです? 我々のチームは、あれを拘束し制御出来る自信があります。その為の準備も万端です」
「そんな自信すら、遊ばれてる気がするけどねー」
「諄いですよ。だいたい、他の地区の者には、関係ないでしょう。干渉して頂きたく無いのですがね」
 白衣の人間はふんと鼻を鳴らせて、少しだけ表情を変えた。
「…ところで、お伺いしますが。我ら7区の実験体を定期的に11区に回して差し上げてますが。何の実験をなさってるのです? まぁ、必要の無くなった実験体を処分して頂けるのは、有り難いのですがね」
「それは、お口チャックのナイショだよ。もし、知ったら、君の首、飛んじゃうかもよー?」
 銀髪の人間はクスっと笑い、自分の首の前で手を水平に動かして、首を切る真似をして見せた。
「ふざけないで下さい」
 白衣の人間は、わざとらしく大きな溜め息をする。
 2人はそのまま歩き続け、突き当りを左に曲がって行った。
 グラビティは、2人の後を追う事にした。
 会話から察すると、この2人は研究員たちの中でも、上にいる者のはず。この部屋から外に出る、別の出入り口を知っているかもしれない。
 十分に距離を保って、見失わないように、2人を追う。
 このケージ部屋は、こんなにも広かったのかと、グラビティは驚いた。どうやら、自分が入れられていたケージは、出入り口に近い場所だったらしい。
 進むにつれて、ケージの中の生き物たちの数が減っていった。煩い鳴き声や叫び声も少なくなる。
 やがてケージの積み上がってできた壁が、この施設のどこにでもある普通の灰色の壁に変わった。
 その通りの角を曲がった研究員を見失いそうになって、グラビティは足を早めた。
 しかし、その曲がった先に、すでに2人の姿は無かった。
 代わりに、狭い通路の先に出口と思われる扉が見える。今まで逃げ出していた扉と同じ形のものだった。
 グラビティはその扉に駆け寄ろうとして、咄嗟に飛び退いた。
 左側の壁。そこに、扉が開いたままの部屋があった。その部屋に、さっきまで見ていた研究員たちがいる。
「何だよ…あれ」
 エレクトロがいた部屋に似た、とても頑丈な造りの、広めの部屋だった。
 自分が、いつも入れられているケージのある部屋に新しくできたガラスの筒と同じような、もっと大きいガラスの筒が置いてある。高さは4メートルくらいだろうか。それを囲む鉄の塊たちも、もっと増えていて、大きなものばかり。ケーブルやコードも異常な数で、見ているだけで目が回りそうだった。壁や天井に繋がっている太いチューブまである。
 大きな違いと言えば、ガラスの筒の中に薄い緑色の水は無くて、代わりに煙りのみたいなものと放電した電気が動き回っていた。瞬間的に形らしい形になるものの、すぐに溶けるように消えてしまう。
 白衣の人間は片手に書類を持ちながら、その大きなガラスの筒を指差して、銀髪の人間に何かを話していた。銀髪の人間は、う~んと首を傾げながら聞いているみたいだった。
 何だろう。
 さっさと通り過ぎるつもりだったのに。
 何か、感じる。
 大きなガラスの筒の、その不思議な中身に見とれてしまった。
 目覚めた時にはすっかり消えて忘れてしまう夢の断片を、指先で触れたみたいな感じがした。夢を見ていたということは思い出せたのに、どんな夢だったのかが思い出せない。そんな感じだった。
 バチッ!
 大きな感電音がして、ガラスの筒の中の煙りのみたいな雷のようなものの動きが早くなった。そして、煙りが黒に染まって、固まり始める。完全に形になりきれていないが、その姿は折り畳まれた大きな漆黒色の翼に似ていた。
「なっ、数値が高い…、計測しきれない!?」
 白衣の研究員が、大慌てで隣にあるデスクのパソコンに向かい、キーボードを打ち始める。機械音が異常な音を立て始める。
 重なりあって交差している翼が、少しだけ隙間を作り、その隙間に燃えるような真紅の長い髪がゆらりと流れた。
「何だ、この質量は…!」
 すっかり顔色の青くなった白衣の人間は、銀髪の人間に何か指示をして、ガラスの筒の右手前にある装置の操作を手伝わせた。
 真紅の髪がさらりと揺れると、真っ白の陶器みたいな肌が見えた。それと同時に、細く開かれた目が片方だけ見えた。
 その目を見て、グラビティは息が止まった。
 白目の所が黒くて、血色の瞳をしている。
 自分と、同じ目だった。
 その目が、じっとこちらを見ている。
 思わず大声で叫びそうになって、グラビティは自分の口を両手で押さえた。
 恐怖とは違う。でも、心臓を握られたような気分だった。
 ほんの数秒間。
 たったそれだけの時間、グラビティと黒い翼の者は同じ目で見詰め合っていた。
 黒い翼の者は、細い目を閉じると、一瞬にして溶けた。元の、不定形な煙りと不定期な放電に戻る。
「…incarnationrate…7.29%…だと…? たった、これだけで…」
「この特殊強化ガラスでもダメみたいだねー。今ので、ヒビが入っちゃったよ。次はダイヤモンドで造ってみる? あはは、経費、大変そう」
 顔面蒼白の白衣の人間に、銀髪の人間はガラスの筒を撫でながら他人事みたいに、クスクスと笑った。
 グラビティは硬直したまま、口を押さえていた両手を力無く下ろす。
 何なんだ、アイツは。
 今まで自分が見てきた生き物たちよりも、明らかに違いすぎる。心の奥底まで見抜いてしまいそうな眼差しが、記憶に刺さりそうなくらい鮮明に残った。
「今、何を見てたんだろうねー、神様は・・・。あっ」
 銀髪の人間は、黒い翼の者の目線の先、つまり、こちらに振り返った。黄色いアイマスクに似たゴーグルを付けていて、当然こちらからは相手の目は見えてないが、目が合ったということは十分に分かる。
「貴様は!」
 白衣の人間も振り返った。
「やべっ」
 グラビティは全力で走り、奥に見えている廊下へ出る扉に向かった。
 自動ドアが開いた先は、いつもと変わらない廊下の、少し先の場所に出ただけだった。
 これでは、また警報が鳴る。
 いや、さっき2人の研究員に見られたのだから、どちらにしろ、通報されて警報は鳴ってしまう。
 せめて、さっきの2人の研究員に追い付かれないように、グラビティは腕に重力を込めて、扉のすぐ隣に出っ張っている四角い機械を叩き壊した。
 こうすれば、この扉が開かなくなるはず。
 この場しのぎでしかないが、グラビティは走り出した。
 ・・・が。おかしい。
 もうとっくに大音量の警報が鳴り響いてもいいはずなのに、まったく静かだった。
 あの2人の研究員が通報しなかったとしても、もうすでに廊下の監視カメラには見られている。
 それなのに。
「???」
 今日はいつもと違うことばかりで、グラビティは多少ながら、困惑した。困惑しながらも、いつもと違う方向へ逃げてみるものだなと、薄く笑った。
 グラビティは走るのをやめて、ぐっと身構えるように気合いを入れる。
 神経を研ぎ澄まし、エレクトロのいる部屋の方へ慎重に向かい始めた。
 
 
 
 
 
つづく


弐寺絵まとめ8

2005/12/25
トレイシスが好きすぎてる。


2005/11/25
落書き:ギガデリック
真面目な顔してても、お菓子は手放せない。


2005/11/25
落書き:エース
きっと、A様も悩む時くらいあるよ。


2005/11/25
落書き:トレイシス
昼間は家庭的、夜は小悪魔。
それは、男のロマンDA! …とか言ってみる。
…ん? この流れだと、夜は魔王さんの方なの?






2005/11/23
タント詰め合わせ。色々な妄想を楽しんだ。


2005/10/22
長い間、展示物のトップにいた『ALFARSHEAR~双神威に廻る夢~』の士朗っぽい人。


2005/09/01
綺麗な、邪悪。無垢な、悪心。純粋な、破壊。そんなイメージがある。


2005/08/21
『tant pis pour toi』の子。某所の為に描いた下書きの再利用。
ガサガサと着色。雑描き…。
左上の水玉は、只のパレット用なので、お気になさらず(消し忘れ)
…あーもー、コイツ、猫耳にしか見えねー…!(笑)


2005/08/21
ギガつん。


ドラクロ絵まとめ

2005/06/24
フィーンドとマンティコア。同属性の竜同士は、仲が良いのだろうか。
幼竜であるフィーンドたんの方が、戦いたく無い相手。可愛い顔して魔神を呼び、小さな身体で氷の槍と化して突撃し、果ては命すらも取り替える。
…でも、あの真ん丸い爪で腕とか肩とかに停まられたら、鼻血出そうです(笑)
初めて闇基本(濃)をゲットした時は、取っ付き難いドラゴンだと思ったけれど、今ではすっかりお気に入り。力一杯飛ぶ姿が愛おしい。尻尾に萌ゆる。


2005/04/30~2005/05/31トップ絵
闇属性幸運種。闇亜種(濃)の真似。
僕も、アバドンみたいになりたいな!
…って、感じです。
ガンバレ、アスタロスちゃん!


2004/10/16
ドラクロ漫画の1コマ目を使用しての、アニメ…と言う程のモノでもないモノ(笑)
無駄に長い。


2004/10/15
ヴァンプでGO
総入れ歯です。
他のドラゴンを見る限り、あの歯並びと美白っぷりは有り得ない(笑)
これでも闇属性スキーです。闇竜大好きです。
…光最強のデザインも含めて、間違いが多々あるのは目をつぶってやって下さい。
ネタは鈴甘ちゃんから。サンキュ★


2004/10/11
お絵描き掲示板にて、闇属性幸運種。


2004/10/17
お絵描き掲示板にて、闇属性亜種濃。


2004/09/08
闇属性の幸運種。・・・可愛い。色も好み。
…せめて幸運種もレッドアイズにして下さい…。なぜゲーム内ではエメラルド色なのか…。


2004/06/25
お絵描き掲示板にて、雷属性基本種・幼竜。


ここから下は擬人化なのでご注意。
 
 
 
 
 
2005/04/04
闇最強属性種族。
 
2005/12/11
闇最強属性種族は最高だよな!!


2004/09/27
闇の亜種濃の擬人化(♀)です。小悪魔っぽい感じで。
闇っ娘、可愛いなぁ・・・。


弐寺絵まとめ7

トップ絵のまとめ。
 
 










2005/11/26~2006/01/31
26代目。タント/traces/A
タントはランダム表示で表情が変わるようにしていた。
クリスマス仕様も。
タント&トレイシスだと、万遍の笑顔で「トナカイ可愛いのぅ、似合っておるぞv」ちょっと照れて「…そうか」で、A様&トレイシスだと、ニヤリ笑いで「トナカイ似合っ…」即座に「…黙れ」って、コトですね、ハイ。





2005/06/24~2005/11/22
23第目…トレイシス/24第目…タント/25第目…タント。


2005/05/31~2005/06/24
22代目。グラビティ。
我が家のグラビティはトレイシスの因子を持っていて、覚えの無い記憶の奥底にトレイシスの存在を感じている。
いつかトレイシスに会えたら、グラビティは嬉々とするのか、それとも恨むのか。


2005/03/27~2005/04/30
20代目。tracesと世紀末。
この二人は、ほのぼのしているがいいさ。エンドにとって、tracesは親みたいなもんだし(私的設定)
初めて、エンドの全身を描いてみた。…思いっきり想像の産物です。
余談ですが、我が家のエンドは、精神年齢が3歳~6歳くらいです。鉱石が好物で、普段は深い地下の洞窟で石を食べています(超小食)が、時々tracesが迎えに来て一緒に過ごす時間があります。tracesとお茶を飲むのが幸せ。


2005/01/29~2005/02/28
19代目。エグゼ。
サイバーっぽいのを目指して、成り切れて無い(苦笑)





2005/01/08~2005/02/27
17代目。GENOCIDEの兄さんとgigadelicの少年。
この二人が一緒にいると淡い幸せを感じます(笑)
ギガ君は凶暴で我侭だけど、きっと自分の下僕には優しいんだ。…と妄想。
ジェノサイド兄さんは、こう、危険なコトしてそうな感じで。そう、大量殺戮を企てる危険な大人な感じで。
着色している時に、母が「可愛いレッグウォーマーだね」と言いました。
兄さん冷え性だったら笑える。マジ笑える。いいじゃん、冷え性(大笑)


TOOL 5

 コポコポ、コポコポ…。
 
 不正確な世界に、ゆらゆらと漂う身体。
 不鮮明な自我に、ふわふわと霞む意識。
 
 見たのは、茶髪の幼児。まだ物心が芽生えたか芽生えないかの、幼い男の子。
 その子が白い大人たちに連れて行かれる所。
 その子と離れたくなくて、手を伸ばした。透明な壁に指先が当たった。
 
 あの子は、何処へ行ってしまったのだろう・・・。
 
 
 
 コポコポ、コポコポ…。
 
 コポコポ、コポコポ…。
 
 
 
◆◇◆◇◆◇◆
 
 
 
 【アーミー】とよばれる少年たちは、互いの命を奪い合い、生きる権利を獲得しようとしていた。教えられた知識は同じ、身体に叩き込まれた技術は同じ。だから、個々としての力が勝敗を決めた。
 特殊な改造を施された少年たちは人間の大人を遥かに凌ぐ身体能力を持ち、誰も住んでいない廃虚にも似た街が納まった巨大な地下室で、毎日のように殺し合いを行う。
 殺される前に殺せ。あらゆる手段で命を奪え。それがいつも言われている言葉。
 訓練について行けない者たちは、次々と姿を消していった。
 そんな【アーミー】たちの中でも、特に驚異的な能力で勝ち抜いてきたのは、ナンバー160だった。真っ白な髪をした、小柄な少年。鋭い眼光で捕らえたターゲットは絶対に逃さなかった。
 
 ボロボロになった廃屋ビルの廊下。
 尋常では無いスピードで走り抜け、激突するかの様に壁に背を当てて、身を伏せる。
 ドカンと音がして、間もなく熱風が身体を横切っていった。
 熱風が過ぎ去り、静寂に戻った廊下を、ナンバー160は逆戻りに走る。立ち止まった部屋の中には、黒い死体が横たわっていた。
「ナンバー284を爆破」
 ナンバー160は、小さな通信機で上官に連絡をした。
 通信を切ると再び走り出し、ターゲットとなる【アーミー】を探し始める。
 唐突に気配を感じて、ナンバー160は振り返った。
 ひゅうと空を切る音と共に、鋭利なナイフの先が頬を掠める。
「ちっ」
 舌打ちの音。廊下のガラスを破って外へ飛び出していく人陰が見えた。この階は3階。【アーミー】なら、飛び下りても何の問題も無い高さ。
 ナンバー160は、すぐさま、窓に駆け寄った。窓から顔を出そうとして、すぐに顔を引っ込める。
 ひゅんと目の前をナイフが突き上げた。
 窓の縁にナンバー083がぶら下がっている。彼はニィと笑うと、片腕で身体を持ち上げて廊下に入り、ナイフを構えて飛び掛かってきた。
 それを最小限の動きで躱し、ナンバー160はナンバー083の背中にナイフを突き立てた。
 低いうめき声をあげて、ナンバー083は倒れた。広がっていく赤い液体に何の感慨も無く、ナンバー160がナイフを抜いた。
 絶命させる為に、拳銃を構えると、通信機から訓練終了のアナウンスが流れた。
 訓練終了になれば、もう【アーミー】たちは殺し合をしない。
 眼下に横たわる、自分とあまり変わらない年齢の子供をじっと見てから、目を閉じる。
 瀕死状態。この子供をそうさせたのは自分。命は助かるだろうけれど、負けた“兵器”は使い物にならない。使い物にならくなった“兵器”は、異常なサンプル採取と過酷な身体実験の末に処分されるだけ。生きる権利なんて無い。
「ねぇ、訓練の時間は終わったけど…」
 ナンバー160は、血溜まりにうつ伏せになっているナンバー83に声をかけた。
「医務室に行く? それとも、今ここで…殺して欲しい?」
 せめてもの選択肢を与える。
 ナンバー83は、小さく殺してと言った。
 パァンと、乾いた音が偽りの街に響いた。
 
 ナンバー160は、左腕に掠り傷と口内を切ったくらいの怪我で、5時間の間に38人の“兵器”を殺した。
 日増しにその功績を上げ、他の“兵器”から突出した力に、研究員たちは満足しているようだった。
 この日、他のナンバーを持つ“兵器”たちは、研究員に連れて行かれ、二度と戻らなかった。
 お前はたった1人の【アーミー】になったのだと研究員は言った。
 アーミィ、と。番号では無く、称号で呼ばれるようになった。
 明日から、訓練では誰を殺せばいいのだろうか。そんな考えが頭を過る。
 アーミィは医務室から出ると、薄暗い廊下を歩き始めた。
 部屋に戻る途中、いつもなら閉まっているはず扉が開いているのに気付く。
 歩きながら何気なく視線を部屋の中へ向けると、大きな機器が沢山並んでいた。その部屋の真ん中に、1.7メートル程の球体型のシェルターがあり、分厚いガラスの奥に人陰が見えた。
 新しい【アーミー】だろうか。いや、違う。研究員が言った言葉から考えて、もう【アーミー】は自分以外には存在しない。
 奇妙な感覚に捕われながら、アーミィは通り過ぎた。
 医務室から少しだけ離れた所に、薄暗い部屋がある。研究員はいつも手枷と足枷を付けて、頑丈な鉄格子の独房に、閉じ込める。ここが、アーミィの、【アーミー】たちの部屋だった。
 2メートル四方の冷たいコンクリートの上で横になって、ナンバー160は薄く目を閉じた。拘束されてはいても、そんなに不自由では無い。この鎖を引き千切るくらい、容易い事。それくらい研究員も知っているはず。
 それでも拘束したがるのは、研究員たちの傲慢さかもしれない。
 アーミィは浅い眠りについた。
 
 
 
 翌日、アーミィは独房部屋の中で、ぼんやりとしていた。
 支給された栄養剤を飲んで、何をする訳でもなく、虚ろに天井を見る。昨日までの、生きるか死ぬかの訓練を繰り返していたのが急に無くなってしまったものだから、拍子抜けしたのかもしれない。
 訓練以外に、やる事なんて無い。自分の手を見ると、銃を握った時の手付きになっていた。身体の一部のように手に馴染んでいる銃器やナイフは、訓練の時でないと触らせてもらえない。手持ち無沙汰で、手を握ったり開いたりしてみた。
 足枷も手枷も無く、鉄格子には鍵も掛かっていない。好きに行動しても良いという暗黙の命令なのだろう。けれど、そんな命令をされても、どうして良いのか解らない。
 普通の人ならば、暇だと思うのだろう。けれど、アーミィは暇になるという経験をした事が無かった。
 静かで平穏な時間が、逆に焦燥を感じさせる。
 居ても立ってもいられず、アーミィは独房部屋を出た。
 無愛想な灰色の廊下。行く宛も無く、ふらふらと歩いて行き着いたのは、訓練に使っている地下の偽造都市だった。有刺鉄線が張られ、立入禁止の看板が下がっている。
 ここに来ると、心無しか警戒して、顔付きが険しくなるのが自分でも解った。
 壊れたビルは、不思議といつの間にか元の形に直されていた。
 ふと、地下都市の視界に入る遠くの道路の端に拳銃が落ちているのを発見した。普通の人ならば見えたとしてもただの石にしか見えない様な距離だが、鮮明に見えていた。
 さっさと回収して、上官に渡さないと。
 そう思い、アーミィは2メートルを超える金網を軽く飛び越えて都市に入り、足早に銃を拾うと出入り口に戻る。
 その帰り途中、来た時には崩れていたはずのビルの壁が直っているのが目に付いた。
「……」
 立ち止まり、誰も居ない街を振り返る。
 誰も居ない。居ないのに気配がするのは何故だろう。生き物とは違う、何かの気配。建物に紛れた、確かな存在がある。
 訓練の時には戦闘に夢中で気付かなかった何かが。
「っ…」
 不確かで得体の知れないものに対して、苛立ちにも似た感覚になる。
 アーミィは、目を細めて偽造都市を睨むと、金網を飛び越え、地下都市の部屋を出た。
 上官のいる指令室に向かう廊下で、またあの部屋の前を通った。
 丸いシェルターが嫌に印象的に見えた、あの部屋。そこで、何やら慌ただしい雰囲気が漂っていた。
 緊急事態でも起きたのだろうか。
 
 
 
 
 
つづく


弐寺絵まとめ6

2005/07/05
『PHOTONGENIC』を聞きながら、ガサガサと描き描き。
traces女神に曲を付けるとしたら『PHOTONGENIC』みたいなのが良いな~と妄想してます。良い曲ですよね。美曲!


2005/06/24
とある場面を想定して、きっとこんな顔をするんだろうなと妄想して。
きっと、哀しそうな、困ったような、ちょっと怒ったような顔をするんだと思う。


2005/05/09
「ジェノ兄、卵ちょーだい」
ある日の事、ギガデリックは唐突に頼んできた。
「卵? 何のー?」
「普通のだってば! 食べるヤツ!」
「ああ、生卵ね~。ホリックに持って来てもらえるけど…。ギガ君、生卵好きだったんだ?」
「ちげーよ。生卵はキライ! 卵焼き作んの」
「卵焼き~?」
ジェノサイドは微妙な顔つきで首を傾げた。
お腹が空いたのだろうか。いや、違う。食べたいだけなら、作ってと言ってくるはず。あまり考えたくは無いが、この気紛れ少年は卵焼きが作りたいらしい。
一応、念のため、尋ねてみる。
「・・・作りたいの?」
「うん」
即答だった。
「いきなり…どうしたの? 料理するだなんて、初めてでしょ~?」
「んー。研究員のおねーさんが、すっげぇ美味しい卵焼き作ってくれたから、オレも作りたくなった。焼けたら、ジェノ兄に食べてもらいてーの!」
にんまりと笑顔を見せて言うものだから、不安という気持ちよりも嬉しさの方が上回った。
「そう。解ったよ。卵いくつ欲しいのー?」
「・・・30個くらい?」
「それ、食べきれないよ…。・・・2個ね」
卵焼きは本当に初歩的な料理。焦がしさえしなければ、変な物にはならない。
「作り方は、解ってるよね~?」
「おう。さっき、エレクトロんとこ行って、教えてもらった。アイツ、ぼーっとしてるクセに、何でも知ってんのな」
「・・・ギガ君、あそこは上位の研究員以外は、立ち入り禁止なんだけどね~」
ジェノサイドは苦笑いを浮かべた。
ホリックに生卵を持って来てもらうと、ギガデリックは大喜びで自室に戻って行った。
 
二時間後、ギガデリックは再び元気良く部屋に入って来た。
「できたぜ、ジェノ兄! 食べろよー!」
「どれどれ~?」
意気揚々とデスクの上に置かれたお皿の上には、見事に綺麗に焼けた卵焼きが乗っていた。野菜と思われる赤や緑の粒が混ざっている。
「すごーい、ギガ君、上手だね~!」
「だろ? うまいのいっぱい入れたから、きっとうまいぜ!」
ギガデリックにフォークを手渡されて、ジェノサイドは卵焼きを食べてみた。
ごく普通の卵焼き・・・じゃなかった。
「・・・ギ・ギガ君…、この赤いのは…?」
ニンジンだと思われた赤い粒は、苺の角切りだった。
「この緑色のって、まさか…」
グリーンピースだと思われた緑の粒は、青リンゴ味のガムだった。
噛むとシャクシャク鳴るのは、おそらく砕いたポテトチップスだろう。恐ろしい事に、チョコチップまでもが混ざっている。
「おいしい…よな?」
「え…。う・うん…」
脅迫にも思える万遍の笑顔で問われ、混沌とした味を噛み締めながらジェノサイドは小さく頷いた。
「ねぇ、味見…した?」
「アジミって、何だ?」
「・・・ギガ君、他の人には作っちゃダメだからね…」
「あ? 何で? …んー、ま、ジェノ兄以外に作ってやりたいヤツなんていねーし?」
その言葉は、正直、とっても嬉しくて。
だけど、でも。
天国と地獄を一度に見るとは、この事なのだろうか。
純粋なのだろうけれど、無知とは罪だと思う。悪意が無いのは、一番にタチが悪いと思う。
 
ほんの気紛れで作られたその卵焼きは、ジェノサイドに一時的な卵焼き恐怖症を引き起こしたという。
 
 
 
終わる


2005/05/09
呪われてそうな子だなと、ふと思った。


2005/05/05
traces女神。tracesの魔王も女神も、同一人物だと思いたい。
…で、その魔王と女神が入れ代わる瞬間は、とっても美しいんじゃないかと思う。


2005/03/15
エグゼです。言わなきゃ解からん痛い産物!(言っても解りにくい)


2005/03/05
Horizonの末妹。


2005/02/28
自他共に認める翼好きは私です(爆)
ミニマちゃん好きなんだよ! 知名度低いケド!


2005/02/17
居眠りジェノサイド


2005/02/14
独創絵。というか、趣味絵とも言う。


2005/01/11
たまにはシリアスに描いてみる。
初めて『gigadelic』をプレイした時は、こんなイメージだった気がする。
カッコイイというよりも、恐ェ~と思った。
今ではすっかり、良い感じに可愛い少年に見えてますが(えー…)
ヘッドフォンは描き忘れたのではなく、描くの苦手だから描かなかったんです(オイ)


2005/01/03


寝癖と本音

ギガジェノ風味のお話だよ。


 珍しく…いや、初めてジェノサイドはギガデリックの部屋へ訪れた。
 最近、部屋に来てくれないものだから、体調でも悪くしたのかと考えてしまう。最悪、訓練中に命を落とした…なんて事も考えられる。何せ、『TOOL』の事だから。
 ギガデリックの部屋の扉前に着き、インターフォンを鳴らしてみる。
 しかし、いくら鳴らしても返事は無く、不注意にも扉のロックはされていなくて。
 そうっと開いたドアの向こうには、床に散乱したお菓子の袋が見えた。お菓子が大好きなのは目をつぶるとしても、食べ過ぎとゴミを片さないのは良く無い。後でホリックを呼んで掃除してもらおう。
 部屋に入ると、ベッドの上に部屋主が静かに眠っていた。いつも連れている目玉型メカに囲まれて、そのひとつを抱き抱えて寝ている。目玉達も普段とは違い、瞼を閉じて停止している。
 ジェノサイドは、とりあえず少年の命が無事であった事に安心して、ふうと安息の溜め息をついた。
 ギョロリ。と、目玉の一つが目を開き、こちらを向いた。続くように他の目玉達も動き出し、ふわりと浮く。その中のひとつが、横になっているギガデリックの背中をポンポンと押した。
「…んー」
 むくりと身体を起こして、ギガデリックは、まだ眠たそうな顔で目を擦る。
「ぷっ」
 ジェノサイドは堪えきれなくて吹き出した。活発で鋭い印象の普段とは違う、その少年の仕草も愉快ではあったが、それ以上に愉快な現象が起きていた。
 ギガデリックの頭には、ぴょんぴょんと二カ所、ちょうどネコか犬の耳の様に、髪に寝癖が付いていた。
「あー? ジェノ兄、何か用?」
 本人は気付く事無く、後ろ頭をボリボリと掻きながら話し掛ける。
「あ…、特に用事は…無いんだけどね~」
 くすくすと笑いが漏れる。その様子に、ギガデリックは片眉を上げた。
「何?」
 口調が少しだけ鋭くなる。
「いや、別に…」
「何だってんだよ。答えろ」
 ギガデリックは目を細くして、荒い口調になった。これはまずい。機嫌を損ねては、どんな仕返しをされるか解らない。
「ギガ君の髪形がね…」
「あー?」
 ギガデリックは自分の頭に両手を添えて髪を撫で付ける。
「昨日、髪乾かさねーで寝ちまったからなー。ボサボサしてる?」
「そのままの方が可愛いよ~」
 髪を直してしまうのが惜しく思えて、思わず本音が出てしまった。
 ピタリと、ギガデリックは止まって、ジェノサイドをじっと見る。
「何で?」
 いつもよりも低い声で問われた。墓穴を掘った気がした。
「何で?」
 もう一度、問われた。しかも、更に声が大きくなって。
「えっ…。そのー、か・髪形がね、猫か犬の耳みたいで…」
「ふーん」
 ギガデリックは嫌に冷静に頷いて、目を閉じた。
「ジェノ兄はさ、それを見て笑ってたんだ?」
「いや…、う~…」
「笑ったよな?」
 ギッと鋭い視線を向けられた。ギガデリックの闇緑色と灰色の瞳が、真紅色に変わった。
 一瞬にして、キィンと空気が張り詰める。
 ふわりふわりと何の気無しに浮いていた目玉達が、途端にピタリと止まりジェノサイドに目線を集中させた。
 場が凍るような緊張感に、ジェノサイドの身体が固まる。
 この少年が有する、機械を操っている特殊能力の波長がそうさせるのか、この少年が怒ると周りの空気が鋭利な刃物の様になる。
 同時に、部屋の蛍光灯が、本来以上の強い光を放って、ちかちかと点滅し始めた。ギガデリックの特種能力は、無意識に機器の限界を超えさせる。
 完全にギガデリックの機嫌を損ねてしまったと確信したジェノサイドは、ここは逃げるべきだと判断した。感情の昂りは激しいけど、それは長続きしない事も知っていた。幸いな事に、ドアまでは1メートルの距離も無い。
 ギガデリックに気付かれないようにドアを開けようと、後ろに手を伸ばす。
 カキュン。
 嫌な音がした。ドアがロックされる音だった。
 気付かれてる…!
 ジェノサイドは、ばっと身体を翻して、ドアのテンキーに、この部屋のロック解除の番号を素早く入力した。
 ERROR。
 その文字が表示されると同時にジェノサイドは機転を効かせ、今度は『TOOL』の全てのドアを開けられる、ごく一部の者しか知らない裏の解除番号を入力した。
 ERROR。
「!?」
 血の気が引いた。
 すでに手後れ。この部屋の全ての機械は、『TOOL』の管理者であるエレクトロの管理下よりも、ギガデリックの支配下の方が強くなっていた。
 恐る恐る、振り返ってみる。
「オレの質問に、答えてねーのに、帰れるわけねーじゃん」
 さっきと変わらない、ベッドの上に座ったままの姿勢で、ギガデリックは言った。もちろん、寝癖もそのままだけど。
「笑ったよな?」
「…え~っと…」
「何しに来たのかと思ったけど、…笑いに来たのかテメェ?」
「ち・違うよー! ギガ君、最近、僕の部屋に来てくれないから! 心配して来たんだよ~! ここまで来るのに、14回も転んじゃったんだから!」
 必死に弁解してみると、ギガデリックは、きょとんとした顔になった。目玉達は攻撃体勢から警戒体勢に戻り、ゆっくりと空気に漂い始める。
「変なの。何でジェノ兄が、心配すんの?」
「だって…いつもは、毎日のように来てくれるでしょ~? 突然、四日も来ないんだもん…てっきり…」
「あ、そ。心配してくれんのは、悪い気はしねーな。ジェノ兄んとこ行かなかったのは、何となく行く気がしなかっただけ。明日は行こうと思ってた」
「そう…」
 ただの気紛れだったのかと知ると、遣る瀬無くて、ジェノサイドは苦笑いを浮かべた。
「…それは分かったけど!」
 ギガデリックは、再び声を荒らげた。まだ何か怒っているらしい。
「ジェノ兄、こっち来い」
 無表情で手招きされて、ジェノサイドは、無言で従った。
「ここ、座れ」
 ベッドの上に指を差され、大人しく指定された場所に座る。
 ギガデリックはベッドから降りて、同じ目線の高さで、顔を近付けてきた。瞳の色は元の闇緑色と灰色に戻っている。殺気ほどの怒りでは無くなったらしい。血を見る事にならずに済んで、ジェノサイドは内心ほっとした。
「心配で来たクセに、笑ったの?」
 それか。
 ジェノサイドは、ギガデリックがまだ怒っている理由を思い出し、僅かに顔を逸らせた。
「じゃ、オレもジェノ兄のこと、笑うから」
 ギガデリックは不敵に笑って、すっと手を上げた。それに反応して目玉のひとつが動き、部屋のどこからか整髪料を持ってきた。
 まさか…。
 予感はそのまま的中で。目玉達は自らのコードを出して器用に、ジェノサイドの髪を掻き上げていく。
 五分もしない内に、ジェノサイドの髪の毛には白銀色の耳が出来た。ギガデリックよりも髪が長い分、立派な耳に出来上がっている。
「んー。可愛いっつーか、キモイな」
 あっさりと酷な発言をして、ギガデリックは笑った。
「よし。そのまま、帰れ」
「えっ!」
「途中で直したりしたら、許さねーかんな」
「…や、ヤダよ~! 誰かに会ったら、ハズカシイよ~!」
「ダメ。早く帰れよ、ニャンサイド!」
 変なあだ名まで付けられた。
 ギガデリックがドアを一瞥すると、ドアが開く。
 誰かが通りかからないとも限らない。ジェノサイドは髪の耳を隠すように頭を抱えた。
「このままじゃ、廊下歩けない~ッ!」
「何? ヒゲも描いて欲しい?」
 一体の目玉の側面に丸く穴が開き、ギガデリックはそこに手を入れると、ペンを出してキャップを開けた。指の隙間から、『油性』の文字が見えた。
「それは、もっとヤダ~!」
「右と左に、三本な」
「待って、待ってぇ~! やめて! もう絶対、寝癖で笑わないから~! 許してー、オネガイ~!」
 わたわたと手をバタつかせてから、手を組んで懇願する。
 ギガデリックは少しの間、無言でいたが、やがて口を開いた。
「何か泣きそーだし、今日は気分いいから、許してやる」
 表情の柔らかい笑顔でギガデリックは言い、再びドアの方を見遣ってドアを閉じさせると、ぴょこりと膝の上に跨がってきた。
 ギガデリックの支配下から離された目玉達が、機能停止してゴトゴトと床に落ちる。それは、ギガデリックが完全に別の事に気が向いた証拠。
「ジェノ兄さ、オレがいなかった時、オレの事考えてたんだ?」
 お互いの鼻先を掠めるように顔を近付けて、ギガデリックが嬉しそうにくくっと笑った。そしてジェノサイドの首に腕を回して抱き着くと、頬に小さく口付けた。
「バーカ。オレが死ぬわけねーよ。オレ、強いじゃん。ヨケーな心配だっての」
「そうだね」
 ジェノサイドは静かに頷いて、ギガデリックの背中手を伸ばして、ぎゅっと抱き締めた。
「ギガ君、大好きだヨ~」
「何だよ、イキナリ」
「ギガ君が素直じゃ無いから、代わりに僕が素直になるの」
「何だそれ。変なの…」
 それから、どちらからというわけでも無く、二人はそっと唇を重ねた。
 
 
 
 
 
終わる