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竜使いと白いドラゴン2 ~出会い~ 

 温かい。心地よい気分に浸りながら、ライエストは寝返りを打った。ふわふわとした手触りが気持ちよくて、無意識にぽんぽんと叩く。
「…はっ!」
 息を呑み込んで飛び起きる。視界いっぱいに広がる真っ白で柔らかい毛に包まれていた。自分の身の状況が分からないまま獣毛をかき分けて上半身を起こすと、真っ白な獣毛に覆われたドラゴンの胴体と尻尾に挟まれていた。
 白いドラゴンは、青空のような鬣を揺らしてこちらへ振り向く。赤い瞳と目が合った。
「えっと…」
 ライエストは口を半開きにして固まった。全く身に覚えのない出来事に混乱する。呆けていると白いドラゴンは気が済んだように立ち上がり、湖の方へ向かって行った。
 ライエストは慌てて白いドラゴンの後を追う。白いドラゴンは湖の岸に着くと、見る見るその姿を白い水龍に変える。獣毛は短くなって鱗に変わり、胴体は大蛇のように長く伸びて湖に落ちていった。
「待ってくれ!」
 岸の縁に両手を着いて湖を見下ろす。2メートルほど下の湖面で、白い水龍が不思議そうな表情で見上げていた。
「その…、俺を助けてくれたんだよな? ありがとう」
 人語が通じるか分からなかったけれど、お礼を述べた。すると、白い水龍は湖面に尻尾を出して左右に揺らし、「クァ」と短く鳴いた。
 話が通じたかもしれない安心感を得たライエストは、それに代わるように不可解な疑問が沸いた。この白い水龍は、湖で溺れた自分を助けてくれたのは間違いない。けれど、先ほどまで毛の生えたドラゴンの姿だった。勝手な予想だけれど、水で冷えた体を温めてくれていたんだと思う。でも、別の竜種に姿が変わる竜族なんて、聞いたことがない。
「お前、水龍なのか? それとも…」
 言いかけて、言葉を濁した。この白い水龍が突然変異か奇形種、あるいは混血種だとしたら、同族から避けられているのも納得できる。呪われた生き物だからだ。
 ライエストは意を決して、真剣な眼差しを白い水龍へ向けた。
 もしこの水龍が呪われた生き物なら、孤立して長くは生きられない。
「俺は、ライエスト・トゥルパだ。西の地に住んでる。なぁ、俺の村に来ないか? お前のこと、ひとりにしておけない」
 白い水龍は目を離さずに話を聞いてくれていた。
「今のままじゃ、寂しいだろ? 俺の村にはいろんなドラゴンがいて、仲良く暮らしてるんだ。…ああ、でも、時々はケンカする。こんな大きな湖は無いけど、村の近くに滝と川があって、魚がいっぱいいるから食うに困らないぞ。肉がいいなら、森に猪や熊がいる。魔物もいるけど…」
「クァ」
 白い水龍は返事をするように鳴くと、するすると湖面から体を伸ばし、水龍にあるはずのない羽翼を生やして飛び上がる。岸に着地すると同時に、大蛇のように長かった姿が、体躯のしっかりしたドラゴンに変わった。
 信じられないけれど、やはり姿が変わる。それを目の当たりにしたライエストは微かな悪寒に似た畏怖を感じて、じっと白いドラゴンを凝視した。
 そんなライエストの微量な心境の変化そ察したのか、白いドラゴンは頭を下げ見上げてくる。
 不安気な眼差しを向けられて、ライエストは我に返った。きっとこのドラゴンは他の竜族から奇異の目で見られて生きてきたはず。不安なのはこのドラゴンの方だ。そんな気持ちにさせないために、村に連れていくんじゃないか。
「名前。そうだ、名前」
 気を取り直して、白いドラゴンに笑いかける。名前が無ければ呼ぶときに不便だと思い、どんな名前がいいのか頭を捻った。
 一方、白いドラゴンは、腕を組んで思考を巡らせるライエストの周りをうろうろと歩き、外套の端を銜えて引いたり鼻先で背中をつついたりと、様子を伺っていた。
 ライエストは我ながら良い名前を思いついたと自信あり気な表情で後ろにいる白いドラゴンに振り向く。
 その時、一瞬だけとても眩しい閃光が目に入る。白いドラゴンの姿が、別の”何か”に見えた気がした。空気が凍り付いて固まったような長い一瞬の後、白いドラゴンがじっとこちらを見据えていた。
 頭の中を掠める、聞いたことのない言葉と、見たことのない文字。
「サージェイド…?」
 その言葉と文字の意味を考えるより先に、その名を呟いていた。白いドラゴンは笑うように目を細めてクルルと喉を鳴く。
「そうか。お前、サージェイドっていうのか」
 ライエストは不思議な出来事に小さく震える手をゆっくり伸ばして、白いドラゴンの頬を撫でた。
「いい名前だな! 俺が違う名前付けなくてよかった」
 うんうんと頷き、サージェイドという名を覚えるように頭の中で唱える。昔、村で竜使いになった者がドラゴンに名を付けたとき、その名をドラゴンが気に入らなくて仲が険悪になったことがあったのを思い出す。
 俄かには信じがたい現象に手の震えはまだ続いていたけれど、竜族の中には特殊な能力をもったものもいると村の長老から聞いたことがある。このサージェイドと名を教えてくれたドラゴンが、まさにそれなのだろうと確信した。
「あれ…?」
 ライエストはサージェイドの翼を見て首を傾げた。湖から飛び上がってきたときには羽毛が綺麗に生え揃った翼だったのに、その羽毛は無く、それどころかコウモリの骨格だけのような翼で飛膜すら付いていなかった。
 けれど、水龍に羽翼という異様な姿よりは違和感が無く、この翼こそが本当の翼なんだと何の気なしに感じられた。
「それじゃ、サージェイド。俺の村に…」
 歩き始めようとして、ライエストは足を止めた。水龍を狩りに来た男たちが引いてきた荷車が目に映る。
 もしかしたら、あの男たちがまた水龍を狩りに来るかもしれないし、別の連中が水龍の噂を聞いてこの湖に来るかもしれない。ここはもう安全な場所ではなくなっている。
 ライエストは両手の拳に力を入れて大きく息を吸った。
「おーい!! ここは危ないぞ! もっと西に逃げろ!」
 力の限り水龍たちに向かって大声を上げる。しかし、いくら声を張り上げてみても水龍たちはこちらを警戒するだけで、湖から離れようとしなかった。
「ここにいたら、また怖い人間が来るかもしれないんだぞ! ほら!」
 ライエストは足元にあった小石を拾って、水龍たちの近くに向かって投げた。小石はぽちゃと頼りない水音を立てて湖の底へ消える。
 その様子を見て、サージェイドは地面を見回し、近くにあった小石を見つけて、前肢で湖に払い落とした。ぼちょんと音がすると、それが気に入ったらしく、また小石を探して湖に落とし始める。
「俺は遊んでるんじゃない。真似しなくていいってば」
 サージェイドはぴょこぴょこと軽快に跳ねながらライエストから離れた。完全に遊んでいると思っている。
「お前の友達が危ないかもしれないんだ、遊んでる場合じゃ…」
 話が終わる前にサージェイドは後ろに回り込み、ライエストの股の間に頭を突っ込むとそのまま首を上げた。
「なっ、えっ!」
 サージェイドの首の上を滑って、背中に乗る形になる。サージェイドは笑うように目を細めると翼を広げて飛び立った。いきなりの行動に目を丸くしていると、サージェイドはゆっくりと飛行し、湖の水龍の群れに近づいた。
 水龍たちは近づいて来たサージェイドに警戒し、やや後退しながら口を開けて威嚇し始めた。
「ガァアアア!!」
 サージェイドが大きく咆哮する。水龍たちは慌てふためき、ばしゃばしゃと水面を荒らすように逃げ惑う。
「お、おい、急にどうしたんだよ」
 ライエストは、サージェイドが水龍たちに牙をむいているのを知って戸惑った。噛みつかんばかりに勢いで大きく口を開け、低く大きな声で唸っている。逃げる水龍たちを水面すれすれに飛んで追い回し始めた。さっきまで無邪気な姿からはとても想像できないことだった。
 あまりの変わり様にライエストは焦り、サージェイドを止めようと首を叩いて注意を引こうとするも、全く効果は無かった。
 やがて、1体の水龍が恐怖に耐えられなくなって、前肢の大きなヒレを羽ばたかせて湖から飛び上がった。それを見た他の水龍たちも続けざまに飛び上がり、雨のように水滴を落としながら西の方角へと飛び去って行く。サージェイドは去り行く水龍たちを追うことはせず、空で静かに見送っていた。
 水龍たちが西の方へ飛び去って行く姿を呆然と見ていたライエストに、サージェイドは首だけ振り返ってじっと見つめた。その顔は「これでいいんだろう?」と言っているように見えた。
「お前、まさか…」
 ライエストは、サージェイドの行動が水龍たちを心配する自分に対しての行動だったことを知り、そっとサージェイドの首に抱き着いた。
「ありがとな」
 礼を言うと、サージェイドはクルルと鳴く。その優し気な鳴き声を聞いて、ライエストは目を細めた。
 頬を撫でるようにそよぐ風。いつも地上で浴びる風とは違う風が、空には吹いていた。
 
 
 
 
 
つづく


自分用メモ

日常の雑記 - 日記

自分用のメモ
 
この意識は概念の思想、この身体は概念の幻像。
自我はあっても個としての存在は無く、唯一にして全て。
始まりと終わりを繋ぐもの。
有の体現たる、全てを満たす白い影。
無の象徴たる、果てぬ原初の黒い海。
 
 
【サージェイド】
●好きな食べ物
星 物質 誰かの願い
リンゴ 桃 肉 ホットミルク
 
願いを叶える概念。それゆえに神として扱われていたことも。「全てを満たす白い影」の二つ名をもつ。
片割れである暗黒の宇宙から無限にエネルギーをもらい様々な物質を創り、生命たちの願いを叶えて進化や発展をさせてきた。
願いの内容に関して善悪の判断はせず、願われれば叶える仕組みになっている。
しかし暗黒の宇宙と分断された後は願いを叶える際に対価を得ることが必要となり、自らが活動するための必要エネルギーを得るために星を吸収している。星に住まう生命を脅かすという、生命の願いを叶えるのとは真逆に近い行為だが、本人は気にしてない。
容姿は不定形。超圧縮された物質で物理的な外殻を構築している。真っ白な肌に青い髪、金色の角、赤い瞳、もう片方の目は黒白目に金瞳の姿で目撃されることが多い。
マイペースで割と適当な性格。いろいろなものに興味を示す。人間が好き。
一部の世界では星喰らう化け物と呼ばれている。
 
 
【セーヴァルガ】
サージェイドの片割れで、寡黙な暗黒の宇宙と呼ばれる存在。宇宙群の外側にある虚無空間。「果てぬ原初の黒い海」の二つ名をもつ。
容姿はサージェイドと同型。肌の色は真っ黒で赤髪、銀色の角、瞳は青色、もう片方の目はサージェイドと同じ黒白目に金瞳らしいが、目撃者はいない。
有限であるサージェイドに無限のエネルギーを注いでいたが、とある事件でサージェイドと分断されてしまい、その後は眠り続けている。
気怠い雰囲気の朴念仁。サージェイド以外には無関心。
 
 
サージェイドはセーヴァルガの存在を誰にも知られないように隠しているため、名前すら明かさない。
生命たちの願い事を叶えながら、分断されたセーヴァルガに繋がる原点を探している。今のところ、存在する星と物質を全て吸収して宇宙を一点にすれば元に戻れるのではないかと考えている。


うちよそ話

日常の雑記 - 日記

あやさんのブログのお話「薬」を読んで唐突にお話を思いついたので!
あやさん宅の設定とは相違があると思うのでご注意!
あやさんのお話、いつも楽しく読ませてもらってます(*´ω`*)


 むせ返るような強い香り。出所は閉められた扉の奥からだとすぐに分かった。
 鼻に残るような鮮烈な香りだが、不快ではない。それは甘くて優美で。
 また何かやってやがんのかと、レンリは心の中で思いながら扉を開けた。開かれた扉の奥からから、待っていたかのように香りの塊が解き放たれる。
 ヘンテコな道具が並ぶ部屋の中に、ヒメカの後姿があった。
「何やってんだ、ヒメカ」
「きゃっ! レン!? ノックくらいしなさいよ!」
 声をかけると、ヒメカはびくりと肩を揺らして振り返る。手には試験管を持っていて、紫色の液体が入っていた。
「また新しい魔法か」
 レンリは試験管を見て呟いた。部屋に充満した香りの発生源が分かって肩を竦める。
「今度のは強力なんだから」
 ヒメカは得意げな笑みを浮かべて試験管を軽く振る。しかし、すぐに目を伏せた。
「魔法って、いつかは消えてしまうのよね。いくら強いのを作って効果を延ばしても、永遠じゃない…」
 ヒメカの話に、レンリは「そうだな」とだけ短く返した。ヒメカが今作っている薬が惚れ薬なんだと容易に推測できた。
「あの白い神ができるんだから、あたしだって、いつか…!」
 強い意志を秘めた目で試験管の中の液体を見るヒメカに、レンリはやれやれと首を傾げた。
「あの化け神は魔法使いじゃねえよ。法則や理を変えて、事象を操作してんだ。他から干渉を受けない限り効果が永続なのは当然だろ」
「そんなのおかしいじゃない! ズルいわよ!」
 ヒメカがぎゅっと唇を噛みしめる。その様子は、長年積み上げてきた努力の重さを感じさせた。
 レンリは、はぁと息を吐く。ヒメカの気持ちも分からなくは無い。あのサージェイドとかいう常識が通じない存在に対して納得いかないのは自分も同じだ。
 でも事実は、魔法で雨を降らせることはできても、全ての雨粒がどこに落ちるかまでは分からない。法則を操るというのはきっとそういう差なんだと思う。
「そうだ。せっかくだし、コレ試してよ。サラにでも飲ませたら? あんたがサラを手に入れたら、あたしも都合がいいしね」
 ヒメカは試験管に入っている紫色の液体を小さな小瓶に入れて押し付けてきた。
「あ? 俺はそういうことはしねえって言っただろ」
 レンリはヒメカの小瓶を手で押し返す。けれどヒメカは小悪魔のようににやりと笑った。
「そんな悠長にしてたら、他の男に獲られちゃうわよ?」
 
 ヒメカに惚れ薬を無理やり渡されて、レンリは通い慣れた道を歩いていた。
 雲が少なく風も爽やか、麗らかな午後。特に行く予定は無かったはずなのに、無意識に足はルトロヴァイユに向かっていた。
 サラをその気にさせるのに、魔法を使うのは気に入らない。けれど、ヒメカが言う通り、もたもたしていたら他の男に獲られるかもしれない。サラを狙う男は山ほどいる。しかも増えていく一方だ。
 不安を掠める焦燥感に、レンリは舌打ちをした。サラの周りの連中をどうにかしなければ。
 何が無しに道先の遠くへ目を向けると、電線の上に明らかに鳥ではないものが乗っていた。
「あのバカ神…」
 電線に乗っている正体に気付き、レンリは顔を引き攣らせた。急いで駆け寄り、電線の上にいるサージェイドに向かって声をかける。
「おい、そこから降りろ!」
 声をかけられたサージェイドは、こくこくと頷いて頭から真っ逆さまに地面に落ちてきた。水のようにばしゃりと地面で跳ねると、元の人型に戻る。
 レンリはサージェイドを睨んだ。
「何で電線に座ってんだよ」
「鳥、あそこで座る、しテる」
「人間は座らねえんだよ!」
 レンリは呆れと怒りを込めて声を大きくした。本当にこいつは放っておくとロクなことしねえ。自分の存在がバレたら大騒ぎになることを全く自覚してない。
「いいか、人目に付くような行動すんじゃねえよ! てめえ、自分の立場分かってんのか!?」
「うン。オレ…は、願い叶えル。スる」
「そうじゃねえ…」
 がくりと頭を垂れるレンリ。常識知らずに話が通じるわけないから諦めるしかないのか。
 自分のコートの膨らんだポケットに手が触れて、レンリは思い付いた。ヒメカの惚れ薬で、こいつを利用すればいいのでは。得体の知れない化け神に好かれるのは気分が悪いが、サラとの恋路の邪魔者が神だろうと何だろうと対処するのに十分使えるはずだ。
「ところで、喉乾いてねえか? ジュースやるよ」
「じゅーす?」
 レンリはコートのポケットから惚れ薬が入った小瓶を出し、サージェイドに渡す。小瓶を受け取ったサージェイドは小さな声で「魔力…」と呟いた。
 成分がすぐに気づかれてしまったことにレンリは焦ったが、この化け神が魔力の作用まで調べないだろうと予想していた。
 思った通り、化け神は何の疑いも無く小瓶を口に入れた。瓶ごとかよと心の中で突っ込みを入れながらも、顔には出さないように我慢した。
「……」
 サージェイドはじっとレンリを見ながら目をぱちぱちと瞬いて首を傾げる。十数秒過ぎても変わったような様子は無く、サージェイドはきょろきょろと周囲を見回し始めた。
 レンリは訝しんで腕組をした。ヒメカの魔法が効かないなんて有り得ない。それとも、この化け神が生物や霊的存在とは全く違うものだから効果が無いのだろうか。
 …ところが。
 突然、少し離れたところから女性の黄色い声が聞こえた。何事かと声の方を見ると、20代くらいの女性が電信柱に抱き着いている。
「素敵…。こんなに細いのに、硬く力強い体…。私のことも、電線のように支えて…」
 女性は恍惚とした表情で、意味不明なことを口走っていた。
 その異常な光景に、レンリは唖然とする。不穏な様子を感じて通り沿いにある公園の方を見ると、公園のベンチの足に縋りついている中年男性が見えた。
「ああ、なんて細く滑らかな足。静かに佇み、座る者に安らぎを与えてくれる君は、慎ましく慈愛に満ちているよ。そう、まるで女神だ…」
 中年男性も、寒気がする言葉を発している。
 他にも、公園の樹に抱き着いている小さな少年が「ぼくと結婚してよ!」と曇りの無い笑顔で言っていたり、野良猫とカラスがお互いに体を擦り寄せて懐き合っていたりしている。近くの家の中から掃除機音に紛れて「いつも家の中のゴミをあますことなく吸い込んでくれるあなたは、汚れ無い心の持ち主なのね!」と声が聞こえた。
「何なんだ…」
 周囲が異常事態になっている気配がひしひしと伝わってくる。
 もしやと思い、サージェイドを見ると相変わらずきょりきょろと周囲を見回していたが、その目線は焦点が合っていない。それは景色を見ているのではなく、別の何かを見てることを物語っていた。
 まさか、こいつ、惚れ薬の効果を無意識に周囲にまき散らしてるのか…?
 そう閃いた瞬間、レンリはサージェイドの肩を掴んで揺さぶった。
「おい、今飲んだの吐き出せ!」
 サージェイドはレンリと目を合わせると、人間には発音できない声で何かを言い、掌を地面へ向けた。その掌から紫色の液体と砂粒みたいに細かくなったガラス片が落ちる。
 すると電信柱に抱き着いていた女性は我に返って、気恥ずかしそうな顔でそそくさとその場を離れて行った。中年男性や少年も元に戻り、惚れていた対象物から身を離す。
「これは強力だな…」
 レンリは苦笑いを浮かべた。
 
 その後レンリは、惚れ薬は強過ぎて、異性どころか目に入った物にすら惚れてしまうことをヒメカに伝えに行った。
 ヒメカは「ええ!?」と叫んで、自分が使うように再作成した紫色の液体を惜しげに見詰め、気落ちした様子で試験管ごとゴミ箱へ放り投げた。
「あんたに試してもらって、良かったわ」
「オマエな…」
 レンリは半眼になってヒメカを見た。大変な事態になってしまったことに文句を言いたかったが、飲ませた相手が相手なだけに、何も言えなかった。
「で? サラは何に惚れちゃったの? ゴミ箱とかだったら大笑いしてあげる」
 ヒメカが意地悪な笑顔と期待の眼差しを向けてくる。
「サラには飲ませてねえよ。野良猫だ、野良猫」
「なぁんだ」
 ヒメカはつまらなさそうに言った後、ムスっとした表情になった。
「せっかく作ったのに、猫なんかに飲ませないでよ!」
「へーへー」
 レンリはヒメカの不満を払うように手を振って、部屋を出た。部屋にひとりになったヒメカは「今度こそ!」と声を張り上げていた。
 壁越しにその声を聞いて、レンリはヒメカの直向きな努力は大したもんだなと感心する。
 それと同時に、自分ももっと努力が必要だろうと思い始めた。


別世界

日常の雑記 - 日記

とある物語の。
 
 
同じ夢見て育ったね 貧しくも穢れないこの国で
秘めた想いは花咲かず ずっとずっと閉じ込めてた
いつだって このままで…
 
白の理を遮り 赤い炎は運命を変えた
たったひとつの為に すべてを狂わせた魔女
その想いは 激しくも純粋で…
 
この物語の結末を 誰もが嘆き悲しんだ
海に沈む高嶺の花 目覚めることなんて無くて
必ず守ると 未来に交す約束
 
運命を纏う魂の再会 高嶺の花に笑顔が集う
時を告げる銀の砂 零れ落ちる砂は あとわずか
失われた夢を 秘めた想いを 成すべき願いを
叶えよう 今度こそは…


ぴんく

日常の雑記 - 日記

創作でサキュバス。完成品は展示物に格納。
こっちの表情とどちらにしようか最後まで迷ってた。
清楚な女の子もいいけど、エロ可愛い女の子もいいよね。
スケベな紐パンツを思い付いたから描きたくなったっていうのが本音である。
おムネの大きい女の子を描くにあたって重要なのは谷間が「Y」か「I」か。
谷間が「Y」のおムネは張りがあっていい感じに見えるけど、現実世界では寄せて上げてる盛りムネの可能性が高いからな。騙されてはいけない。天然乳の谷間は「I」になる。
 
現実に存在しないものを描くにも、本物を知る必要があるっていうことですね、ハイ。


サキュバス

創作 サキュバス夜になると遊びに来てくれるサキュバス。
枕は表も裏もYES。


竜使いと白いドラゴン ~始まり~

サージェイドという存在に関わった人のお話。


 澄み渡る青い空には雲ひとつなく、暖かな光を注ぐ2つの太陽が互いの距離を置いて浮かんでいる。
 少年は宿部屋の窓から顔を出して大きく息を吸う。やわらかな風がどこからか花の香りを運んできた。
 今日はいい天気だ。雨も降りそうにない。
 気を引き締めるように拳を握り、窓から顔を引っ込めた。頭に布帯を巻いて外套で身を包むと、急いで荷物をまとめて部屋を出る。
 木製のドアを開けて階段を降りる・・・ところで足を滑らせた。
 ぐるぐると回る世界。鈍い音を響かせて、一階まで転げ落ちる。
「いってぇ…」
 痛みに呻き声をあげながらゆっくり目を開くと、目の前には宿屋の娘が口元を手で押さえて驚きの表情を浮かべている。
「あの…。お客様さま、大丈夫ですか…?」
 声をかけられ、少年はハッとして立ち上がると、慌てて荷物を背負い直した。
「足音うるさくて、お騒がせしました!」
「はぁ…」
 宿屋の娘は不思議そうに首を傾げたが、すぐににこやかな笑みを見せた。
「元気な子ですね」
「は、ははは…」
 少年は苦笑いを返しつつ、強打してじんじんと痛む尻を手で押さえながら、宿屋の娘の前を通り過ぎた。咄嗟に嘘をついてしまったが、今はそれを悔いる気もない。廊下の角を曲がって宿屋の娘から見えていないことを確認すると尻を擦りながら歩く。
 はあ、と。溜め息をひとつ。自分のそそっかしさに毎度呆れながら、一方で諦めている。
 宿のエントランスに出ると、筋肉隆々の強面男が小さなカウンターで番をしていた。ここの主だが、何をどうしたら先ほどの美人な娘が生まれてくるのか理解に苦しむ。完全に母親の面影しかない。
 宿の主に代金を払い、少年は宿屋を後にする。
「お気をつけていってらっしゃいませ。良い旅を」
 見送りに来てくれた宿屋の娘に、軽く手を振って挨拶を返した。
 
 “竜使い”。
 それは少年…ライエストにとって必ず到達しなければいけないものだった。
 ライエストの村では、竜使いになれば一人前の男として認められる。13の歳から相棒となるドラゴンを探すことを許され、幼い頃から一緒に育ってきた周りの友人たちの何人かは2年の間ですでに小型ながらもドラゴンを相方にしていた。
 悔し紛れに「俺はもっと強いドラゴンを相棒にするんだ!」と宣言してしまい、村を出て今に至る。
 長老たちは「よそのドラゴンは気性が荒いのもいる。やめとけ」と呆れ顔で警告してきたが、それを振り切って来たのだ。絶対に強いドラゴンを見つけなければならない。
 そしてその目星を付けて、村から遠く離れたこの地にやって来た。
 一晩過ごした宿があるこの町は田舎の小さい町と話に聞いていたけれど、ライエストにとっては大きな町だった。なんだか自分の村がいかに辺境の地にあるのかを思い知らされている気分になる。
 ライエストは町を出て北側にある森に向かった。この森の湖には、ドラゴンの一種である水龍の群れが来ていると噂を聞いた。龍の種族は非常に賢く、聡明な者にしか心を開かないと言われている。自分は決して聡明とは言えないが、何もしないで最初から諦める気もない。気の合う水龍がいるかもしれない。
 思っていたほど木は多くなく、森の中は木漏れ日のお陰で明るかった。森を抜けて開けた場所に出ると、そこには大きな湖。小さな川しかない村に住んでいたライエストにとって、感動するものだった。何日分の飲み水になるかなあと、無意味な考えが浮かぶ。
 大きな湖の中央付近で、太陽の光をきらきらと反射させて水面を泳ぎ回る水龍の姿が数体見えた。体長は15メートルくらいだろうか。
「おーい!」
 ライエストは湖の岸から落ちそうなくらい身を乗り出して大声を上げた。水龍たちはこちらの声に気づいてくれたようで、長い首を一斉に向けた。
 しかし、すぐに水龍たちは各々の方向に泳ぎ始める。それ以降は全く無視だった。
「やっぱり、そうだよなー」
 ライエストは大きな溜め息と共に、がくりと頭を垂れた。
 ドラゴンから信頼を得るのは難しい。ただ声をかけるだけで仲良くなれたら苦労はしない。人語を理解できるドラゴンは希少だし、人間に無関心なのもいる。
 背負っていた荷物を降ろし、その場に座った。ここに何日か滞在して様子を見るつもりだった。
 膝の上で頬杖をついて、ぼんやりと湖を眺める。水龍たちは思い思いに水面を漂っていた。前肢の大きなヒレを羽ばたかせて水上を飛ぶものもいる。
「キレイだな…」
 初めて見る水龍たちの青い鱗の輝きに見惚れ、無意識に感嘆を漏らす。本で見た水龍よりも、ずっとずっと綺麗だった。
 対岸の方に目を凝らすと、色の違う水龍が1体泳いでいた。色素が抜けてしまったのか、真っ白な水龍だった。その白い水龍が他の水龍たちに近づこうとすると、他の水龍たちは避けるように離れていく。
「突然変異か奇形種かな。泳ぎ方も変だし」
 白い水龍を目で追っていると、泳ぎ方も他の水龍とは少し違っていた。くねくねと体を動かさずにまっすぐ泳いでいる。どこから推進力を得ているのか謎だった。
「そこの少年、旅の者か?」
「うえっ!?」
 突然声をかけられて、ライエストはひっくり返りそうになりながら声がした方を見上げる。白黒混じりの長い髭を蓄えた老人が立っていた。老人は目を丸くしているライエストを見て、ほっほっほと笑い声を出す。
「ここの湖は危険じゃぞ。水龍がおるからな。魚釣りが目的なら、あちらに川がある」
 そう言って老人は森の奥を指差す。
「釣りじゃない」
 ライエストは立ち上がって首を振った。
「ふむ? 見たところ、お主はリスティア地方の者か?」
「リスティアよりもっと西の、サクディンテ…から…」
「サクディンテ? まさか…。おぉ、おぉ。昔聞いたことがあるぞ。ドラゴンたちと暮らしている貴重な民族がいるという土地じゃな。本当にいたとは…。こんな遠くまでよく来たのう。サクディンテのドラゴンは穏やかで友好的だそうじゃないか」
 老人はうんうんと頷きながら言った後、表情を曇らせる。
「ここの水龍に会いに来たのか? ここにいるのは群れからはぐれた奴らの集まりじゃ。人間たちに襲われて逃げてきた奴もおる。心を開いてはくれんよ」
「人間に襲われた…?」
「知らないのも無理ないかの。東の地方では水龍の鱗は高価な装飾品になるんじゃよ」
「え…」
 思いがけない話に、ライエストは言葉を失った。
「そういうわけじゃ。ここの水龍たちは諦めたほうがよいぞ。人間を嫌っておる。以前、ここを通りかかった町の者も襲われたことがあるんじゃ」
「そう…なのか…」
 ライエストは肩を落とした。でもそれはここまで来て諦めてしまうことではなくて、あんなに美しい水龍が装飾品のために狩られていることに対してだった。
 老人が去ったあとも、ライエストは湖から離れられずに、水龍たちを眺めていた。たまたま近くまで泳いできた水龍に笑顔で手を振ってみる。水龍はライエストと目が合うと急に方向を変えて、何度か振り返りながら離れていった。怯えと怒りを秘めた目だった。それを知ったライエストは振っていた手を力なく下ろした。
 双子の太陽の片方は地平線の下へ姿を隠し、もう片方も沈み始めて、辺りは薄暗い世界に色を変える。
 ライエストは水際から離れ、森に落ちている木の枝を集めて焚火にする。荷物から毛布を取り出して横になり、溜め息をするのと同時に目を瞑る。明日になったら北に向かってみようと考えた。特にあてがあるわけではないけれど。
 まどろむ意識の中、昼間に見た水龍たちの鱗が太陽の光を反射させて煌めく光景を思い浮かべる。ここの水龍たちは静かに暮らせるといいなと祈った。
 
 
 ガラガラとした地響き。散らばっていた意識が急速に集まって、ライエストは目を覚ました。焚火はとっくに消えていて寒さに身震いをする。
 何の音で起こされたのかと辺りを見回すと、湖畔に3人の男が立っていた。4メートルほどの荷車を引いていて、その上には荷車よりも長さのある大きな槍が設置されている。地響きは荷車の動く音だとすぐに分かった。
 男たちは荷車を湖に寄せると、乗っている大きな槍の刃先を湖にの向けた。話し合いながら、刃先の角度を少しずつ調整している。刃先が向けられた先には水龍の姿があった。
 その意味を知った瞬間、ライエストは駆けだしていた。
「やめろ!」
「何だァ?」
 男たちがライエストに気づいて機嫌の悪い顔をする。
「お前ら! 水龍を狩りに来たな!?」
 ライエストが声を張り上げると、男たちは怒りの形相に変えた。
「変な恰好のガキだな! どこから湧いてきやがった!」
「昨日からここにいた」
 答えながら、自分が寝ていた場所を指さす。
「んなのどうでもいいんだよ!」
 男が口をへの字に曲げて睨みつけてくる。そっちが訊いてきたくせに、とライエストは心の中で反論した。
「おい、ガキを捕まえろ! ふん縛って湖に沈めちまえ!」
「奴隷商人があれくらいの歳のが欲しいって言ってたから、売るのがいいなー」
「どっちでもいい! 早く捕まえろ!」
 リーダーらしき男が、2人の男に顎で指示をする。細身の男と腹の出た小太り男が剣を抜き、じりじりと距離を詰めてくる。
「痛い目見たくなかったら、おとなしく捕まりな」
「悪いようにはしないからねー」
 男たちが手の届きそうなところまで近づいて来たのを見計らって、ライエストは森の中へ走った。
「待ちやがれ!」
 男たちは逃げる子供の背中を追って走り出す。しかし右へ左へと木を避けて蛇行する背中はどんどん遠ざかっていき、5分足らずで見失ってしまった。
「くそ…、どこ行きやがった」
 男たちの走る速度が落ち、様子を伺う歩みになる。細身の男が顔を顰めて辺りを見回すと、少し進んだ先の大きな木の陰に追っていた子供が身に着けていた薄緑色の外套を見つけた。
「あそこだ」
 小太り男に小さく耳打ちして、2人は足音を立てないように近づく。勢いよく外套を掴んで引っ張ると子供の姿は無く、外套が低木に掛けられていただけだった。
 2人の男が呆気に取られていると、木の上から空を切ってライエストが飛び降りてきた。
 その姿を見上げる間もなく、2人の男は後頭部に衝撃を受け、その場に倒れる。
「魔物の餌になる前に目が覚めるよう、森の精霊に祈れよ」
 ライエストは太い木の枝を捨てて自分の外套を掴むと、湖に向かって走った。
 
「よしよし、いい位置で止まったな」
 水龍を狩りに来た男は仲間2人に子供を任せて、発射台の上で湖の水龍に狙いを定めていた。仲間の2人が戻る前にさっさと水龍に槍を撃ち込んでおきたかった。何せ水龍を引っ張り上げるほうが時間がかかる。日が暮れる前には戻らなければいけない。
「やめろって言ってるだろ!」
 前方に集中している男の背中に向かって、ライエストは走りの勢いに乗って蹴った。
「うがっ!」
 男は発射台の柱に頭をぶつけて倒れたが、すぐに立ち上がってライエストを睨み付けた。
「くそガキが…」
「水龍に悪さしてると、毎晩寝小便垂れるぞ。自分の寝小便で溺れて死ぬぞ」
「はぁ?」
 ライエストの唐突な話に、男が呆気にとられる。
「悪くないドラゴンたちに酷いことすると、竜神さまが怒るんだからな!」
「なんだその迷信。くだらねぇ」
 苦虫を噛み潰すような顔をして、男は荷台に乗せていた柄の長い斧を手に取った。
「ナメてんじゃねぇぞコラ!」
 斧を振り回しながら男が襲い掛かってくる。叩きつけるように下ろされる斧を躱して、ライエストは後方をちらりと見遣った。
 あと11歩。
 頭の中で距離を測り、男が振り回す斧を動きに合わせて避けながら後退する。ちょうど11歩目の所で、背中から倒れた。
「がはは! 終わりだな! くたばれ!」
 チャンスとばかりに、男が斧を大きく振り上げる。
 でもこれがライエストの狙いだった。この場所は自分が焚火をした場所。置きっぱなしになっていた荷物から素早く弓矢を出し、男に向かって構えると同時に矢を放った。矢は狙い通りに男の手の甲に刺さり、男の手から斧が落ちる。
「ちくしょう…」
 男は手の甲を押さえて蹲った。苦悶の表情を浮かべ、完全に戦意喪失しているようだった。
「お前の仲間は森で気絶してる。連れて帰れ!」
「チッ」
 男は覚えてろと月並みの捨て台詞を残して、森の方へ走って行った。
 男が森の中へ消えて暫くした後、ライエストは「あー」と声を出しながら深く安堵の息を吐いた。もし男たちに捕まっていたら殺されていたかもしれない。そう思うと生きた心地がしなかった。村で狩りや魔物退治をしながら育ったけど、人間と戦うなんてしたことがなかった。
 静かになった湖のほとりには、この場に似合わない槍の発射台が乗った荷車が残っていた。
そのままにしておいては危ないだろうと思い、男たちが引いてきた荷車を湖から離そうと引っ張る。
「何だよこれ、重い…」
 しかし、大人3人がかりで引いていた荷車が子供ひとりの力で動くはずもなく、一向に動く気配がない。
 仕方なく荷車を離すのを諦めて、湖に向けられている大きな槍を発射台から下ろすことにした。槍に跨るようにしてよじ登り、上の方にある弓形に掛かった金具を外そうと手を伸ばす。
「わっ」
 滑らせた片足に何かが当たり、ガチと音がした。その瞬間、槍はライエストを乗せて飛び立った。急な風圧に耐えられずライエストは槍から手を滑らせて湖に落ち、槍はライエストの重さで失速して水龍の群れよりもずっと手前で落ちる。
 山育ちだったライエストは泳げなかった。竜使いになるために水龍を探していたのは、水辺で困らないためでもあった。
 じたばたと動かす手足に反して、体は徐々に沈んでいく。水が口に入り大きく咳き込んだ。水龍たちは遠巻きに様子を見ている。
「クォォン!」
 不意に透き通るような鳴き声が聞こえた。真っ白な水龍が猛スピードで近づいてくる。
 顔が水面に沈みかけて目を閉じる瞬間、白い水龍が水面から飛び上がり、輝くような純白の羽毛に包まれた翼を広げた。
 水龍に羽翼…?
 有りえない光景を最後に、ライエストは意識を失った。
 
 
 
 
 
つづく