日常のこととか、創作や二次創作の絵や妄想を好き勝手に綴っていく、独り言の日記。

小話

日記 - 日常の雑記

ただの即興文。キャラ設定だけは数年前からあったやつ。


焼け焦げた大地に、それを覆いつくすかのような巨大な瓦礫の山がそびえ立つ。
栄華と繁栄に満ちていた世界を破壊しつくしたことを知らしめる山は、ところどころに生臭い異臭を放つ生物だったものの残骸が混じっていた。
「ライエスト! なぜ、未来を改竄した!?」
焼けた大地に立つ男が、怒りと悲しみを帯びた大声を出す。
そんな男を瓦礫の山から見下ろすライエストは、口角を上げた。
「こんな世界、もういらないだろ?」
冷めた目付きで地平線の先まで焼けて更地になった世界を一瞥する。
「お前は、この世界を守ると…未来を信じると、言っていたのに!」
そんなライエストを睨み上げ、男は歯を食いしばった。
ライエストは憂うように目を細める。
「…昔のことさ」
ただ一言、そう言い返す。
そして、夕焼け色とは違う深紅色に染まった大空へ向かってゆっくりと片腕を挙げる。
空に、大きな白い影が現れた。
まるで夜空のような皮膜の翼を広げた大きな白いドラゴンは、細やかな光の粒子と極彩色に輝く鉱石を身に纏い、蒼空色の鬣を揺らしながらライエストの後ろへ足を下す。
「さあ、星喰らう化け物よ! この星を食らえ! この世界に等しく滅びを! それが俺の願いだ!」
ライエストは、最期の願いを告げた。
白。
何も無い白に染まった世界は、白に還る。
 
 
「……」
目が覚めた。
生き物とは異なる自分には、目が覚めたという表現は正しくはないのだけれど。
サージェイドは雲の上から地上を見下ろす。大きく広がる青と緑と茶と、少しの灰色が見える。焼けた大地と瓦礫の山なんて無い。
夢。きっとそうだ。過去の出来事は結晶化させて身体の底に沈めている。だからさっきの幻覚に似たものは人間が見るという夢に違いない。初めて見ることができた。これも人間を真似るのが上手くなった証拠だろう。
サージェイドは一つ目が付いたフードを被り直して、白い骨格だけの翼を広げる。
「ライの、願い…は、本当にあれでよかった…?」
遠い過去の反芻は、硬い外殻を壊して、長く引きずり続けた思いを再び呼び覚ました。
 
ライエストが生きていた世界は、人間とドラゴンが共存していた。
ドラゴンと心を通わせ使役する者を、人々は『竜使い』と呼び、羨望の眼差しを向けていた。
ライエストも竜使いを目指して旅をしていて、サージェイドはそんな彼と出会った。ライエストはドラゴンではないサージェイドをドラゴンだと言い張り、共に旅をすることを望んだ。
お調子者で涙もろくて、弱いくせにお人好し。そんなライエストをサージェイドは気に入り、竜使いの竜として時を過ごす。
いくつもの年月の旅のさなか、ライエストはある賢者からサージェイドが“星食らう化け物”であることを教えられた。最初こそ困惑し動揺した彼だったが、その後も変わらずサージェイドを相棒のドラゴンとして扱っていた。
ドラゴンとは似て非なる存在であるサージェイドは他のドラゴンとは別格の強さで、ライエストの名は世に知れ渡り、やがてライエストは一国の竜騎士団の団長にまで昇りつめる。
約束された栄光の未来。ライエストの心に灯る志は国を守ることになっていた。
…それなのに。
ライエストは相棒のドラゴンを“星喰らう化け物”とした。世界を滅ぼす対価にしたのは“サージェイドとの絆”だった。
“星喰らう化け物”は彼の願いを、ただ叶えるしかできなかった。自分はそういう仕組みの存在だから、拒否はできない。
サージェイドは無くなった世界を離れ、ライエストの魂を探して様々な世界を飛び回る。幾星霜の時が過ぎて漸くその魂を見つけた。平凡な生活を送る、どこにでもいるような人間として生きていた。
嬉しい気持ちでかつてのドラゴンの姿を見せると、ライエストの魂を宿した男は恐れおののき攻撃してきた。
それを見て気付いた。それは至極当然のこと。転生した魂は過去のことなど綺麗に洗い流している。何より、対価として絆を失ったのだから、再びそれを結ぶこともできなかった。
もう、彼の傍にいることはできないと知ったサージェイドは、相棒と呼んでくれていた者の許を去った。
 
あの時、彼が口にした願いは、本当に彼の心からの願いだったのだろうか。知るすべは無く、滅んだ世界は過去の事象と共に結晶化して身体の奥にある。
サージェイドは人間には発音できない声で、小さく囁く。見た夢のようなものを結晶化させて身体に沈めた。人間でいう、記憶するという行為。現象の隔離保管。
今はとある喫茶店のとある少女の願いを叶えるために、この世界にいる。過去のことは必要ない。
きっと今日も、あの少女は喫茶店で笑顔を振り撒くだろう。ちょっとドジなところが彼に似ている。
サージェイドは雲から飛び降り、まっすぐに喫茶店へ向かう。
 
どうか、彼女の願いが失う為の願いにならないように。