日常記録やゲームの感想とか、創作や二次創作の絵や妄想を好き勝手に綴っていく、独り言の日記。
 


リアルが仕事多忙のため、しばらく日記更新お休み


 

穏やかな生活

二次創作小説

cult of the lamb(カルトオブザラム)の捏造話。
2023年4月24日のアップデート後、レーシィが子羊の教団に入って間もない頃のお話。


レーシィはその場に座り込んで、耳を澄ませていた。
周りから、遠く近くで様々な音がする。木の伐採音、水の音、誰かと誰かの談笑、何かを焼く料理の音。
隙間無く聞こえてくる音たちの、そのどれにも入れずにいた。
ナリンデルに襲われ眼を失い、緑の王冠の力で周りを視ていた。けれど、その王冠はもう自分の頭上に座していない。目が見えないということが、こんなにも世界から孤立してしまうことなのかと、痛感する。
忌々しい子羊。と、そう思っていたのはほんの最初の頃だけで、王冠を失う代わりに心はとても穏やかになっていた。
何故だろうか。と、自分に問う。
王冠を手に入れ、司教の身であった時は神として崇められ、何でも思い通りにして自由に振舞っていたはずなのに、今の方が自由であることを実感してしまう。
数え切れないほどの信者たちの信仰心に、自分は囚われていたのだろうか。
それとも、王冠の力で支配していたのではなく、王冠に自分が支配されていたのだろうか。
子羊に殺された自分がその後どうなったのか、よく覚えていなかった。薄く記憶にあるのは、自分が治めていた夜闇の森で大勢の信者たちに囲まれて、酷い痛みのする体を引きずるように立っていたこと。今となっては、長い悪夢を見ていたような感覚でしかない。
「レーシィ!」
離れた所から、幼く高い声で呼ばれて、レーシィは顔を上げた。
軽快な足音が近づいて来る。声と匂いで子羊だとすぐに分かった。
「子羊、何の用だ」
「うん、元気にしてるかなって思って。体に痛いところはない?」
「我に気遣いなど…いや、痛みは無い」
嫌味のひとつを言いかけて、やめた。子羊に完全に負けてしまった自分は大人しく服従するしかない。
「よかった!」
子羊の声が明るくなる。
命を奪い合う仲は、すっかり消えていた。
「あのね、レーシィ。君に頼みたいことがあるんだ。多分、君にしかできないかもしれない」
子羊から思いもしなかったことを言われ、レーシィは首を傾げた。
「実はね、もっと信者を増やしたいから、今の畑だけじゃ収穫が足りなくて…。畑にしたい場所は決まったんだけど、そこの土がとても硬くてボクたちじゃ掘れないんだ。だから、その…」
子羊の声が段々と小さくなる。
「君なら、掘ってやわらかくできるかなって…思って…」
「ふむ」
レーシィは小さく頷いた。できるも何も、土を掘るのがワーム族の性分だ。
別に子羊に恩を感じているわけではないが、孤独に浸るより子羊の信者たちのように自分も何かしたかった。そんな自分に、ただの退屈しのぎだ、と言い聞かせる。
「いいだろう」
「本当? ありがとー!」
子羊が飛び跳ねて喜ぶ気配がする。
「こっちだよ!」
不意に子羊に手を掴まれて、レーシィはびくりと体を震わせた。元々ワーム族に手足は無く、腕はこの姿になって初めて得たものだった。今まで無かった器官に触れられるのは落ち着かないし、腕をどう使えばいいのか未だに分からずにいた。
子羊に手を引かれ、それによって傾く体に任せて足を動かす。子羊は右へ左へと曲がりながら進んでいく。歩きやすい場所を選んでくれているのだと知れた。
「ここだよ」
そう言って子羊が手を放す。それに合わせて、レーシィは足を止めた。
子羊が連れて来た場所は、微かに掘り起こした土の匂いがするが、ほとんどは痩せた土の匂いが漂っていた。
「ここから、あそこまでなんだけど…」
子羊が指で示す距離は、レーシィには見えなかった。
「あっ、えっと…」
気付いた子羊は言葉を濁す。
「声で指示するがいい。土の中であっても地上の声は聞こえる」
「うん、わかった!」
子羊は元気に返事をした。
その声を背に、レーシィは土を掘り進める。石とまではいかないが、言われた通りに硬い土だった。この土では種も根を張れない。けれど、レーシィにとっては何ら問題なかった。それどころか、王冠を手に入れる前の昔を思い出して、少し楽しくなってしまった。
「そのまままっすぐ進んでー!」「そこを右に!」「ここで終わりだよ!」
子羊の指示で掘り終えて地上に出ると、「すごーい」「ありがとー」といった声がそこら中から聞こえ始めた。掘るのに夢中で気付かなかったが、信者たちが集まっていたらしい。
「ありがとう、レーシィ! 助かったよ。みんなも喜んでくれてる」
子羊にお礼を言われ、どう返事をしていいか分からず、無言で頷いた。何人か、優しい手つきで土を払ってくれるのがくすぐったくて、体を強張らせる。
その時、いくつかの知っている匂いがしたが、他の匂いに紛れてすぐに消えてしまった。
 
 
 
レーシィはその場に座り込んで、耳を澄ませていた。
増えた畑は順調そのもので、芽が出たと信者たちが声を上げてはしゃいでいた。
周りから、遠く近くで聞こえてくる様々な音は、もう聞き慣れた。
手を使って触れることで、自分の周りに何があるのかある程度は分かるようになった。
土を耕した日を境に、子羊の信者が話しかけてくるようになっていた。ただの他愛もない会話をひとつふたつ交すだけだが、悪い気はしなかった。
「…れっ、レーシィ…さ…ま…」
聞き覚えのある声がして、レーシィは一瞬だけ思考が止まった。
「…アムドゥシアス」
色々な花の香りに紛れてアムドゥシアスの匂いがする。土を掘り起こし終えた時の、土を払ってくれた手の匂いを思い出す。ヴァレファールとバルバトスもいるのだろう。
「はい、ここにおります」
正面の地面すれすれの位置から返事が聞こえる。深くひざまずいている…のではなく土下座していることが分かった。
「お前たちも子羊に引き入れられたのだな。それで、土下座の理由は?」
「えっ、見え…? はっ、はいッ!!」
アムドゥシアスが緊張で震えた声を出す。
「ほほほ本来であれば、もっと早く…いえ、レーシィ様がこっ…こちらへいらした時に、声をお掛けしゅべ、すべきでした! です…が、その…教祖さ…子羊に負けた俺は、レーシィ様に合わせる顔が無く…まして、子羊の信者…にっ…」
後半は泣きそうになっているアムドゥシアスの話に、レーシィは小さく溜め息をした。
「ここの生活は楽しいか?」
「へっ?」
「子羊に救われた命、大事にするといい。ここでは子羊が教祖だ」
「レーシィ様ぁ…!」
レーシィは咎めるつもりはないことを伝える。アムドゥシアスが感極まった声を上げ、直後に鈍い音がした。土下座する勢い余って頭を地面にぶつけるという分かりやすい行動だった。
「今の我は混沌の司教ではない。それに、目が見えぬ分、お前たちよりも劣る身なのだぞ」
「そっ、そんなこと! 他の種族から蔑まれてたワーム族を救ってくれたのはレーシィ様です! 今の俺たちがいるのはレーシィ様のお陰なんです! レーシィ様の御目の代わりは俺が! おそばに置いて何でも申し付けてください!」
「ずるーい! ねぇアム、その役僕がやりたい!」
「おいおい、ドジで有名なヴァレファールにそんな大役が務まるワケねぇだろ」
聞き馴染んだ声が増えて、レーシィは顔を緩めた。
「あ! 何だよ2人共、今更出てきて!」
「だって、レーシィ様に怒られると思ったんだもん」
「右に同じだ」
「お、お前らぁッ…!」
アムドゥシアスがぎりりと歯を食いしばる音がする。
元司祭3人の騒ぎが確実に大きくなってきて、流石にレーシィも黙ってはいられなくなった。
「ところで」
「はいっ!!」
一声かけると、3人の返事が重なる。
「あの畑…。3人いながら、あの程度の硬さの土も掘れないとは情けない」
「全く掘れなかったわけじゃないんです! 俺は1メートル掘れました!」
「僕…40センチ…。でもね、レーシィ様、僕すっごいがんばったんだよ!」
「オレは5メートルだ」
「でも、バルは筋肉痛になって2日も動けなかったよね!」
「おい、黙れ」
レーシィは平静を取り戻した3人からこの教団についての話を聞いた。
子羊は何よりも平穏を望んでいる事。信者たちを家族の様に大切にしている事。仕事の強制は無く、信者たちは自由に生活し、自主的に従事している事。
そして、アムドゥシアスたちは畑と花壇の世話をしている事。どうやらヴァレファールが「土の事についてワーム族の右に出る者はいない」と豪語したらしい。3人から色々な花の匂いがする理由も分かった。
さらには、他の司祭たちも子羊の信者として生活している事。
「残念ながら、ヘケト様、カラマール様、シャムラ様は…」
「…そうか」
バルバトスの話にレーシィは俯く。兄弟たちがいるなら、真っ先に匂いで分かったはずだ。それが無かったのだから、居るはずがなかった。
それでも、確認せずにはいられなかった。
 
 
 
日中とは全く違う表情の夜。
様々な音は止み、信者たちの小さな寝息と、小さな虫が地を這う音がする。
レーシィは子羊と2人きりで話がしたいとアムドゥシアスに頼んで、子羊のいる講堂へ案内してもらった。
「子羊よ」
子羊の気配のする方へ声を掛けると、子羊はとてとてと足音を鳴らしてすぐ近くまで駆け寄って来た。
「レーシィ、どうしたの? もうみんな寝てる時間だよ?」
「我は何故、生きている。お前に殺されたはずだ」
「……ごめんね」
子羊が、絞り出すような声を出す。
「あの時、僕が未熟だったから…。君たちの魂がこの世に残っちゃったんだ。君たちの信者は、君たちが死んだ後も信仰をやめなかった。その力が、死んだはずの君たちの体に魂を引き戻したんだよ」
子羊の声が、わずかに震える。
「生きることも死ぬこともできなくて、苦しかったでしょう?」
「……」
子羊の話に、レーシィはあの悪夢のような記憶を呼び起こされた。
周りを埋め尽くす、地が割れんばかりの歓声上げる大勢の信者たち。ひどい激痛で痙攣する体。むせ返るような血の匂いと腐敗臭は自分のものだと理解していて。子羊との戦いを終わらせなければいけないという焦燥感で気が狂いそうだった。そこへ子羊が現れて…。
「これは、僕の責任」
レーシィは子羊の言葉で我に返る。その言葉を、あの時にも言われた気がする。
子羊の話で、自分に起きたことを理解した。おそらく、兄弟たちも同じようなことになっているはずだ。
「レーシィ、もう寝たほうがいいよ。もう君の体は司教の時とは違うから…」
「もうひとつ、聞きたい」
手を引こうとする子羊の手に、もう片方の手を重ねる。
「蛙の樹林へ行くのだろう?」
「エリゴスたちから聞いたんだね。そうだよ、明日の説教の時間に言おうと思ってたんだ。だからどれくらいの日にちになるかわからないけど、ここを離れるよ」
「子羊…、その…」
レーシィは言葉を詰まらせた。
こんなことを子羊に頼める立場ではないことは苦しいくらい理解している。先に家族を奪ったのはこちらなのだから。
「分かってる。ヘケトのことだよね?」
いつもよりも優しい声で、子羊が言った。
「そのつもりで行くんだよ。ううん、つもりなんかじゃない。必ず見つけて、連れて帰ってくるから。もちろん、次はカラマールと、シャムラもね。そのために、畑を増やしたかったんだよ」
その言葉に、レーシィは頭を下げた。
「子羊よ、お前は何故…。我らはお前の一族を滅ぼし、お前を殺そうとしたのに…」
「僕ね、気付いちゃったんだ」
子羊は、噛みしめるように声を出す。そして物思いに耽るように、ゆっくりとっした歩みで、講堂内を回り歩き始める。
「この世には、本当に悪い人はいないんだって。何かをするのには、必ず理由があるんだよ。だからね、みんなが仲良くなって、心配事もなくなって、幸せになればいいんだよ」
うんうんと、子羊が頷く。
そんなことは不可能だ。と、レーシィは思った。子羊の考えは漠然としているし途方もない。各々の思想の違いが争いを生むというのに、それを統一できるはずがない。
「とても永い時間はかかると思うけど、きっと、いつかは…」
独り言のような、自分自身に言い聞かせるような子羊の言葉は、揺るがぬ強い意志が込められていた。
もしかしたら、この子羊なら…。
レーシィは不思議な安心感を覚えて、意識が薄らいだ。こくりと頭が傾く。
「子羊よ。姉上を、どうか…」
「うん。待っててね」
子羊が眠気で動きが鈍いレーシィの手を引き、講堂を出る。
その手の温かさに、レーシィは体を任せてゆっくりと歩いた。
 
 
 
「子羊めがッ!! 貴様、レーシィに気安く触れるとは許さぬぞ!!」
エリゴスがドヤ顔で大声を上げる。
ヘケトは無言で子羊の首を締め上げていた。その表情は怒りで歪んでいる。
「あ、姉上、誤解です…」
レーシィが慌てて弁解するも、ヘケトの気持ちは収まりそうも無かった。
「僕はレーシィの頭に付いてた葉っぱを取ろうとしただけで…」
ヘケトに首を絞められている子羊は、宙に浮かんだ足をバタバタと動かしながら事情を説明する。
「それはレーシィの毛だ馬鹿者がッ!!」
エリゴスが感情篭った迫真の声を出す。
周囲には、騒ぎを聞きつけた信者たちが集まり、怯えた様子で子羊たちを見ていた。
子羊によって信者となったヘケトは王冠の力を失い、殆ど声を出せなくなっていた。しかしヘケトの元司祭であるエリゴスが、ヘケトの感情を敏感に感じ取り、まるでヘケト本人の様に喋ることでその不便さは全く無かった。エリゴス本人も楽しそうである。
「姉上、お腹が空いてしまったので…、一緒に食事をしませんか?」
どうにかこの場を収めようと、レーシィが全く関係ない提案をする。
「そうか」
スン…とヘケトの表情が穏やかなものに変わる。
それと当時にヘケトから解放された子羊は地面に尻もちをついた。ゴホゴホと咳き込みながら、小さな声でレーシィありがとうと言う。いそいそとこの場を離れて行った。
すっかり機嫌のよくなったヘケトに手を引かれ、レーシィはヘケトの隣りを歩く。
目は見えなくても、しっかりと感じられる姉の気配に、確かな幸せを感じていた。
 
 
 


緑の毛玉

cult of the lamb(カルトオブザラム)の捏造話。
レーシィは足の生えたヒル族という妄想。


シャムラはそっと目を閉じて己の神殿の中で瞑想をしていた。
つい先ほどまで神殿に入りきれない程の信者で溢れかえっていたが、説教を終えると信者たちは恍惚の表情でそれぞれの持ち場へ戻って行った。
信者たちへの説教は大切な責務だが、こうしてひとり考えに耽る時間も同じくらい大切にしていた。
しかし、その時間はすぐに中断することとなった。
よく知った気配を感じて、ゆっくりと目を開く。
神殿の入口に目を遣って数秒後、石床が黒く波打ち、カラマールが姿を現した。
「シャムラよ、来てやったぞ。今日は良いものが手に入ったのだっ」
来て早々、カラマールは上機嫌で話しながら、連れてきた信者2人と共に近づいて来る。2人の信者はひとつの木箱を運んでいた。
「供物に珍しいものがあってな。我の信者が夜闇の森で拾ったそうだ。シャムラにも見せてやろう」
「ふむ」
シャムラは相槌をして話の続きを待つ。カラマールは何かあるとよくこの神殿に訪れていた。内容の軽重は問わず、自ら出向いて来る。話が面白くなければナリンデルに馬鹿にされ、下らなければヘケトに時間の無駄だと怒られているものだから、自然とこの場所に来ることが多くなっていた。
あらゆる知識を得て、既知ばかりの退屈な日々だが、こうしてカラマールが来ることで退屈というものを遠ざけてくれている。
「お前たち、下がってよいぞ」
木箱を運ばせていた信者を魔法陣で帰らせ、カラマールは木箱に目を移す。
それにつられて、シャムラも木箱を注視した。
「む? 静かだな。死におったか?」
カラマールの言葉から、木箱の中身が生き物であると分かった。生き物の供物は珍しいものではないのだが。
カラマールが木箱の錠を外して蓋を開ける。中には木の若葉を集めたような毛玉が入っていた。
「ヒル族か」
シャムラは毛玉の正体を呟く。夜闇の森では見飽きるほど多く生息し、見苦しいほど地べたを這いずり回っている下等な生き物だ。その事はカラマールも知っているはず。
「そう、ヒル族の子供だ」
カラマールは木箱から鎖を引っ張り上げる。首輪に繋がれた小さなヒル族の姿を見て、シャムラは目を大きくした。
その反応が見たかったとばかりに、カラマールが満足気な笑顔を浮かべる。
「どうだ、珍しいであろう? 何百年と生きてきても、初めてこんなものを見たであろう?」
カラマールの声が弾む。
ヒル族の子供には2本の脚が生えていた。ヒル族も教化してやれば人並みの姿を得ることもあるが、この姿で生まれたのであれば、非常に珍しい。
間もなくして、その足と尾がじたばたと動き始める。首輪で吊り上げられたのが苦しくなって、目を覚ましたらしい。
「まだ生きておったか」
カラマールは無造作に鎖を降ろすと、子供はしっかりと2本の足を石床について立ち上がる。
それを見てシャムラは、ほう、と感嘆を漏らした。
「ただ生えた飾りの脚ではないな」
「そうだとも。こやつを生贄にし…こら、逃げるでない!」
ヒル族の子供が走り出し、カラマールは慌てて鎖を掴み直して引き戻す。
「貴様を生贄にしてやるのだぞ。身に余る光栄と思え」
顔を近づけられたヒル族の子供は、臆することなく丸い口を大きく開けて威嚇した。
「理解できる知能も無いか」
カラマールは吐き捨てるように言って、顔をシャムラへ向ける。
その直後、カラマールは縦に伸びながら悲鳴を上げた。その腕にはヒル族の子供が噛み付いている。
慌てふためいて腕を振るカラマールを見て、思わずくすっと笑ってしまった。
何年振りに笑っただろうか。そんな事を考えたくなったが、目の前の現状に集中することにした。
「笑い事ではない! …ええい、放せっ!!」
カラマールはぐいと鎖を引く。その勢いでヒル族の子供は宙に投げ出された。
弧を描いて落ちてくる子供を、片手で受け止める。カラマールに子供を差し出すが、カラマールは一向に受け取ろうとしなかった。
「カラマール。これを我に寄越してくれるか」
「好きにしろ。我はそんな強暴な生贄はいらん。お前の驚く顔が見られたから満足だ」
カラマールはヒル族の子供に興味を失くしたようだった。
元の目的は我を驚かせることだったか、とシャムラはカラマールの子供じみた行動を微笑ましく思った。知ってはいたが、改めて分かるとなかなかどうして良い気分になる。
ヒル族の子供は、助けてやったにも関わらず、遠慮無しに手に噛み付いてきた。
「臆せず行動するのは、良い事だ。だが、才気の見極めが必要である」
シャムラは頷いて子供を見据える。
「ヒル族は下賤な一族だぞ。生贄にしか使い道は無いからな」
カラマールが呆れたように手をぷらぷらと振った。
「夜闇の森はまだ手付かずであったからな。これに任せてみようと思う」
「何!?」
カラマールが素っ頓狂な声を上げる。
これは確信。この子供はきっとよく育つ。
「お前も、生まれた地を何ものにも侵されないよう統治し、蔑まれるヒル族の地位を確立できるのであれば本望であろう?」
静かに語りかけると、ヒル族の子供は噛んでいた手をゆっくりと放した。話を理解している様子はないが、何かを悟った様子は見て取れた。
「その脚で立ち、我らと同じ目線でものを見る覚悟はあるか? その脚で進み、ヒル族を導き教えを説く矜持はあるか?」
「シャムラよ、考え直せ」
「我らの血を飲んだのだ。お前もその血を我らに捧げよ。それをもって兄弟と成す」
カラマールの制止を他所に、シャムラはもう片方の手でヒル族の脚を掴み、そっと牙を立てた。筋肉の発達していない肉はすぐに裂けた。
横目で見遣ると、ヒル族の子供はぶわりと毛を逆立てて4つの目を大きくしていたが、神妙な面持ちのままじっと見つめ返していた。
「お前にその資格があれば、いずれ王冠を授かるであろう」
ヒル族の子供の足を放し、首輪を指先で軽く叩く。鉄の首輪は音も無く砕け散った。体を降ろしてやると、決心とも諦めともつかない表情で見上げてくる。逃げようとはしなかった。
それを見ていたカラマールは、大きな溜め息をつく。
「勝手にしろ。…まぁ、お前が今まで過ちを犯したことは無いからな」
「カラマール、こちらに」
「ぬうぅ…」
手招きをすると、カラマールは高い声を低くして呻いた。身分に煩い彼がヒル族の血を飲まされるなんて思ってもなかった事だろう。
不服を表情に浮かべて、重い足取りでじりじりと近づいて来るカラマールを急かさず、見守った。断固たる拒否をしないのは、気が弱いからか、信頼してくれているからか。あるいはその両方だった。
数歩の距離を時間をかけて来てくれたカラマールにヒル族の子供を抱かせると、その表情は一転しぱぁと明るくなった。
「これは…、うむ。思っていたよりも…」
カラマールが己の中で何かを確かめた後、堪える表情で小さく囁く。
「こ、この毛玉め…ふわふわしおって…。我は誑かされんぞ…」
しかしその手は、しっかりと子供の頭を撫でていた。
 
 
 
カラマールはヒル族の子供をシャムラへ返す。
口に残る下賤な血の味も、不思議と不快ではないことに驚いた。
シャムラの事は信頼している。だからこそ、こんな事になるだなんて信じられなかった。でも、まぁ、悪くは無い気がしてきた。ヒル族も、満更でもない。
「我は構わぬが、ナリンデルとヘケトが許可するかは分からんぞ」
一応、警告はしてやった。
けれど、兄は意に介さずいつもの口調で「許可の必要は無い。討論で我に勝てる者はいないからな」と言った。
その言葉は、自慢でも自負でもなく、ただ事実を言葉にしただけでしかない。
この兄は感情が薄いのだ。もしくは、それを表に出すのが苦手なのか。この世の知識を得た代償がそれなのか。
毎日が退屈そうだった。だから今日もこうして来てやった訳だが、兄を驚かせ、笑い声を聞けたから、あの毛玉を連れて来た甲斐があった。
ナリンデルとヘケトが呼び出され、2人がヒル族の子供と血を交わすのを眺めていた。
シャムラにどう言い包められたのか知らないが、ナリンデルは緑の毛玉の頭や尻尾をぽふぽふと叩きながら「悪くない。末弟として兄に尽くせ」と言い、ヘケトは「今日からお前は弟だ」と嬉しそうに世話を焼き始めた。
あの毛玉は物怖じせずに立っていた。随分と肝が据わっている。その度量は褒めてやるべきか。
うむ、兄弟なのだから褒めてやろう。
そう思ったが、ヘケトが離さずにいるものだから、その機会を得られずにこの日を終えた。
 
 
 


死の傷跡

cult of the lamb(カルトオブザラム)の捏造話。
ナリンデルが他の兄弟を負傷させた時のお話。


それは5柱が集まる、いつも通りの定例会のはずだった。
何がかも分からない微かな違和感を最近感じていたものの、その正体が分からず些細なことだろうと思っていた。
しかし。
いつもと変わらぬシャムラの神殿。神殿のあちらこちらにかかる蜘蛛の糸は、複雑に絡み合って光を反射している。
そこでカラマールが見たのは、想像もつかない、有り得ない光景だった。
「シャムラ…?」
口に出た言葉は震えていた。
気を失って倒れていたのは兄のシャムラだった。
その頭は誰もが崇め敬う叡智の源が露わになっており、それを覆っていた頭蓋骨をナリンデルが手に持っていた。
「来たか。カラマール」
ナリンデルは真っ赤な三つ目をカラマールへと向けて、薄く微笑む。頭蓋骨を握り潰すと、払うように投げ捨てる。
カラマールは硬直し、息を呑んだ。
“死”
それを司る彼のことを昔から敬遠していたが、その理由が恐怖だったことを改めて認識した。
そして最近の違和感の正体が、彼の異変だったことも。
彼はシャムラとよく一緒にいた。シャムラもナリンデルをとても可愛がり、自ら知識の一端を教えていた。
その2人が距離を置き始めたのはここ最近の事だった。それと時期を同じくしてナリンデルから向けられる視線が冷えたものになったのも。
ナリンデルから悪戯されることがしばしばあったものだからさして気にしていなかったが、その視線の冷たさは自分だけでなく他の兄弟たちにも向けられているようだった。レーシィに相談されるまでは気付かなかったが。
ナリンデルの目に映っていたのは、兄弟から別の何かに変わっていた。
「ナリンデ…」
「何をしている!」
カラマールの言葉を遮って、清水のように澄んだ美しい声が響き、ヘケトが走って来た。
「ナリンデル、貴様、最近様子がおかしいと思ったら…!!」
来るなり状況を把握したヘケトは、ナリンデルに掴み掛かった。
激昂で顔を顰めるヘケトとは正反対に、ナリンデルは穏やかな表情で目を細める。
漆黒の一閃。ナリンデルの赤き王冠が大鎌となってヘケトの喉を切り裂く。
あまりに突然に、何の躊躇いも無く。
「うぐっ…」
ヘケトが呻き、膝をついた。げほげほと苦しみながら喉を押さえ、その場に蹲った。
「……」
カラマールは呆然と立ち尽くした。恐怖が根を張り足が動かなくなる。
「カラマールよ」
名を呼ばれて身が強張った。赤い三つ目が、三日月のような形で見つめてくる。
「貴様は、目だ」
その言葉が、次に自分が奪われるものだと察した。この傲慢な獣は昔からそうだ。先に何をするかを解らせて、行き過ぎた悪戯をしてくる。この状況を思えば、今までの悪戯がどんなに稚い事だったか。
“死”が軽い足取りで近づいてくる。赤き王冠が形を変え、大鎌となる。
わざとらしく、ゆっくりとした動きで。
カラマールは本能的な反射で身を退く。空を切る音は顔の左を縦に長く通過し目蓋を掠めて行った。
「ひぃッ!」
悲鳴をあげて、両手で目を隠す。
「目は…目だけはやめてくれぇ!」
「そうか」
ナリンデルは、あっさりと願いを聞き入れてくれた。でもそれは優しさでも慈悲でもなく、この獣の気紛れであることを長年の経験から知っていた。
「臆病者」
ただ一言、冷たい言葉を浴びせられ、嘲笑われた。
そんなこと、知っている。それを面白がられて悪戯されていたのも。それでも、今まではこんな笑い方はしなかった。
“死”の高笑いが、神殿に響く。
その残響と共に曇った音が2つ。左右それぞれに。
耳を切り落とされたのだと気づいたのは、痛みと耳鳴りがしてからだった。
「遅れてしまって、すみません」
背後から、レーシィの声がいつもより小さく聞こえた。レーシィからは自分が陰になってこの惨状が見えていないはず。
警告をしようと顔を上げたが、目の前にはすでにナリンデルの姿は無く。
振り返ると、会釈をする末弟の前に獣は立っていた。
「ナリンデル兄上、ご壮健で…えっ。わああっ!!」
脈打つ痛みと耳鳴りがする耳は、末弟の叫び声を小さく捉えた。
痛みと恐怖で歪む視界で“死”が去って行くのを見た。
「うぅ…目が熱い…痛い…。ナリンデル兄上、何があったのですか!?」
ヒル族の末弟は腕が無いせいで状況を探れず、その場で立ち往生している。獣に何をされたのかも分かっていないようだった。
「レーシィ…」
血の止まらない両耳を押さえながら、何も知らずに目を奪われた末弟の名を呼ぶ。
「…カラマール兄上? どこにいますか? ご無事ですか!? 今、ナリンデル兄上がいて…姉上と、シャムラ兄上はいますか!? ごめんなさい、目が見えなくて…助けに行きたいのに…」
レーシィは我が身よりも兄弟たちを心配していた。
その健気さがカラマールの心に刺さる。本当なら、目を失うのは自分のはずだったのに。
「レーシィ、すまない…」
自責の念に苛まれて出た謝罪は、罪悪感に押し潰されて震えたか細い声へと変わる。狼狽えているレーシィには届かなかった。
ヘケトがよろめきながら立ち上がり、レーシィを抱きしめる。
「レ…ジ…ィ」
くぐもり掠れた声。初めて聞いたその声が、あの美しい声のヘケトのものである事が信じられなかった。
「だ、誰…だ? 放せ…!」
相手がヘケトだと分からないレーシィは、抱きしめる腕から逃げようとする。
「レーシィ、落ち着け。それはヘケトだ」
そう伝えると、レーシィは動きを止めて、様子を伺い始めた。
「姉上…? そのお声は…」
「ヘケトはナリンデルに喉を切られたのだ。シャムラは頭蓋骨を割られた。お前は目を切られた」
声が出せないヘケトに代わり、状況を話す。他の兄弟に比べて自分の被害はあまりに小さいもので言えなかった。
「ナリンデル兄上が? どうして…」
レーシィの呟きに、その疑問こそ早く知るべきだったと思い出し、シャムラの方を見る。
いつの間にかシャムラは意識が戻ったようで、石床の上に座り込んでいた。焦点の合わない目は虚ろで、小さく独り言を言っている。耳を切られたのも相まって、この距離からはその内容は全く聞こえない。
カラマールはシャムラへ近づき、肩を揺する。
「シャムラ、何があったのだ!?」
揺すり始めて数秒後、兄と目が合った。…ような気がしただけだった。
「我は…、…不変は…、彼が…」
視線をふらふらと泳がせ、繋がらない言葉を淡々と並べる。
「ど、どうした…?」
いつもとは明らかに様子がおかしい兄に、寒気がした。
 
それから。
4人で力を合わせ、元凶である“死”を冥界の門へ封じ込めることに成功した。
末弟は、緑の王冠の力で周囲の気配を把握できるようになった。けれど、その目に光が届くことは無く、他の者たちの表情が分からないせいで感情を読み取るのに必死になる様子が伺えた。
妹は、黄の王冠の力で声を出せるようになった。けれど、喉から出るのは低く濁った声だった。凄みのある声になって威厳が出たと妹は言っていたが、ひとりのときに声を殺して泣き崩れていた。
兄は、紫の王冠の力で自我を取り戻した。けれど、正気ではなかった。話しかけても返答は上の空で、会話が成り立たないことも多々あった。時々には元の兄に戻るが、ほんの束の間だけだった。
自分は周囲の物音に過敏になっていた。聞こえが悪くなってしまった耳は青の王冠の力で補うのは容易だったが、ここに居るはずのない“死”の高笑いをいつまでも響かせていた。
負わされた傷はあらゆる治療を施しても癒えることなく、命の赤はじわりじわりと体から流れ出る。
 
それはまるで、遥か遠くに封じた“死”へと近づいていく感覚だった。
 
 
 


ゆるりと

日記 - 日常の雑記

聖剣伝説EOM エコマナ キルトゆるーく。
エコマナ楽しくて暫くハマっていそうだ。
エコマナのオリジナルキャラとして登場している子たち、布生地の名前がついてるから…もしかして、キルトとキルテは人形なのでは…?


楽描き

日記 - 日常の雑記

ランディが可愛い。
○○年ぶりだよね。
 
公式絵見てにやにやしてしまう。
当時と違って、服装の装飾綺麗だし、表情も穏やかになったなぁと思う。可愛い。
首肩周りのケープみたいなの着てるけど、それ取るとチューブトップみたいなの着てるよね? 腰帯ピンク色だし女子力高ぇな。
エコマナやってると他の男子が筋肉乗った体してるから、細くて色白なのが目立つ…。
聖剣2では憶病で気弱ないじめられっ子だけど、終盤のストーリーでキレた時に男言葉使うところがいいんだよね。


マジか…

日記 - 日常の雑記

FGO アンリマユ描いたら来るって言うけど、描いたら本当に2体目来たわ…。
恐ろしい…。
 
アンリマユ可愛い、ありがとう。
模様描くのくっそ大変だったよチクショウ。
 
 
絶対にノーパンだろうという確固たる強い意志を持って描いた。
くそ雑魚だけど、飄々としたところ悪魔っぽくて好き。猫っぽい犬という不思議な感覚。生前の設定がヤバくて好き。


殻被ってる子

日記 - 日常の雑記

急にアンリマユに会いたくなって久しぶりにFGO起動したけど、相変わらず捻くれてるし可愛いし最弱で何よりだった。
連れ回しても、やっぱり他のサーヴァントに比べて火力劣るし、宝具使い辛いし。見てて微笑ましいわ。
 
貯まってたフレポでガン回してみたけど2匹目来ない。課金でどうにかなる子じゃないから、仕方ないんだけど。ある意味ストイックな悪魔だよな。
いや、でも…お前、駄犬の自覚あるんだろ何でこっちが「待て」されてんだよ。早く来いよ。あと4匹欲しいんだよ。