日常記録やゲームの感想とか、創作や二次創作の絵や妄想を好き勝手に綴っていく、独り言の日記。
 


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うちよそ話

日常の雑記 - 日記

★あやさん宅のサラちゃんと、うちのサージェイドの小話。とても短いです。
毎度ながらキャラクター性の相違は目を瞑ってください。
菓子作りをすると爆発するという設定が面白過ぎるので何か書いてみたかったのです。
書いてて楽しいうちよそ話!


 ボゥン!
 不自然な音と同時に、オーブンが数センチ飛び上がった。
「えええ! どうしてぇ~」
 青ざめた表情で、サラが嘆きの声を上げる。
 サージェイドはサラの斜め後ろからオーブンを覗き込んだ。サラがクッキーを焼くとクッキーが爆発するらしい。
「書いてある通りにやってるのに」
 サラはオーブンを開け、中で四散した生地を拭きながらレシピ本と睨めっこをする。
「ボゥン」
 サージェイドは爆発音を口真似して、オーブンの中で起きた現象を分析する。どういうわけか、サラが菓子を作ろうとすると爆発するようになっていた。サラが作ろうとしているスノーボールクッキーは菓子作り初心者用のもので、人間がクッキーを作るにおいて最低限の材料と知識しか必要としない。過度の熱により炭化することはあっても、爆発する可能性は無い。
「サラのくっきー、元気」
「あはは、元気すぎだよね…」
 サラは苦笑いを浮かべる。テーブルの上にある材料を見渡し、意を決したように唇を噛み締める。
「もう一回…!」
 計量カップを握り、薄力粉を計り始める。サージェイドはサラの心を見透かしていて、大好きな幼馴染みのナツキとイツキにお菓子を作ってあげたいという想いでいっぱいであることを知っていた。
 サラは料理はできるが菓子作りに関しては全く駄目で、失敗だけを繰り返すうちに、いつからか諦めていたようだった。けれど最近になって、内気な少女が幼馴染みの少年にクッキーを渡して告白するという内容のドラマを観て、それにとても惹かれていた。いつも世話になっているナツキとイツキに感謝を込めたクッキーを贈りたい、と。
 そんなサラの事情を知っているサージェイドは、次は成功するといいなと思った。今の自分は対価となる何かを得なければ本当の力を発揮できない。けれど、一時的なものであれば自分の一部を使う事で何とかできそうだった。魔物や精霊が使う魔力や神通力で現象を起こすのに近い。
 サラが冷蔵庫からバターを取り出している間にクッキーの材料が入ったボウルに近づいて、薄力粉と砂糖に指先を触れた。人間の目では見えない微細な自分の一部を混ぜる。これで焼くことによる爆発の可能性は無くなった。
 サラがバターを溶かすために電子レンジのスイッチを入れて数秒後。
 ボフン!
 またしても不自然な音がして、電子レンジが揺れた。サラが悲鳴を上げ、電子レンジの中を掃除する。
「……」
 サージェイドは硬直してその様子を見ていた。予想だにしなかった。まさかバター単体でも爆発するとは。これはもしや機器の方が影響しているのだろうか。
 サラが布巾を洗っている隙に、電子レンジとオーブンに触って機器を探った。構造も性質も他と違った様子はなく、爆発する要因は見つからなかった。
 再び電子レンジでバターを溶かす。今度は爆発しなかったが、溶けたバターをボウルに入れた途端にボウルが不自然に転がり、テーブルの上に中身が広がる。
 再三のサラの悲鳴。
 サージェイドは目をぱちぱちとさせて周囲の事象の記録を遡って調べる。そして理解した。サラの菓子作りの行動によって菓子作成が失敗する現象が起きるのではなく、サラ自身に菓子作りが失敗する法則が付き纏っているらしい。サラ自身は自分が菓子作りが下手だと思い込んでいるが実際はそうではなく、この法則が邪魔をしているだけだった。
 たまにいるのだ、こういった類いの法則を持った存在が。運命だとか、そういう星の許に生まれただとか、才能が無いとか、過去にもそういった理由をこじつけられてきた存在が多々ある。
 しかもサラに付いている法則は地味ながらも強力なものだった。どんな手を尽くしても必ず菓子作りが失敗するようになっている。
 これではいくら外部から操作しようとしても干渉できない。法則そのものを変える必要がある。
「サラ…」
 サージェイドはそっとサラに声をかけた。自分はどんな願いも叶える仕組み存在。サラが願い、対価をくれれば、この法則を捻じ曲げて書き換えることができる。しかし、こちらから願いの催促はできないようになっている。願いを叶えるには、願望者自らが気づいて願ってもらわなければならない。
「ふええ…。サージェイドくん…」
 目に涙を浮かべ、しょんぼりとしてテーブルの上を片付けるサラ。サージェイドはうんうんと頷きながらサラの頭を撫でた。
 サラは自分が菓子作りが下手だという思い込みのせいで「菓子作りが上手くなりたい」という願い事すら浮かばないようだった。